2023年が開け、再び際限の無い資料収集の日々が始まった。当館(横浜旧軍無線通信資料館)は各位のご協力を頂き、之までに帝国陸海軍の無線機材や電波兵器に関わる多くの機器を収集してきたが、しかし、未だその片鱗すら確認出来ていない機材も数多くある。その一つが帝国海軍の大型航空機用方向探知機、「T式空4号無線帰投方位測定機(テ式空4号)」である。 本方向探知機は独逸テレフンケン社製の機上用方向探知機EZ-2(Peil-G V)を海軍が輸入し、制式化したもので、96式や一式陸上攻撃機等に搭載された。この方向探知機はその後、国際情勢の緊張により入手が困難となり、1940年(昭和15年)頃に急遽国産化され、「零式空4号無線帰投方位測定機」として制式化された。 原型であるPeil-G Vは民間航空機用の方向探知機として、我が国を含む各国の大型航空機で使用され、世界一周飛行を行ったニッポン号も本機を装備していた。 当館は之までに、国内に於いてテ式空4号や零式空4号を発見、入手する事ができず、このため、最近は原型であるEZ-2(Peil-G V)を入手すべく、欧州の収集家に協力を依頼してきた。しかし、大戦中ドイツ空軍は旧式の航空機材を鋳つぶし、新兵器の製造に流用したため、彼の地にあっても本機は希少品で、現在まで、入手に繫がる情報は皆無である。 この調査に関連し発見したのが、先般掲示のドイツ人コレクターDieter Beikircht氏が所蔵するPeil-G X(EZ-2)であった。本収集物はあまりにも完成度が高く、小生は誠驚愕した。https://www.youtube.com/watch?v=NSX7EyRG3k8 ところで、大戦期、帝国陸軍航空隊もEZ-2を参考に、「飛1号方向探知機」を開発し、大型機に配備した。本機については受信機の存在を二台ほど確認したが、残念ながら、当館が入手出来る状況には無い。 陸軍は飛1号方向探知機に続き、中型機用の「飛2号方向探知機」を開発するが、本機については比較的残存機があり、幸い当館も枠型空中線を除く主要構成機材を所蔵している。 以上の如く、現在の所、テ式空4号、零式空4号及びEZ-2(Peil-G V)の入手に関わる手立ては無いが、年頭に際し、本年はこれら機材を是非とも収集したく、強く決意、期待する次第である。海軍「T(テ)式空4号無線帰投方位測定機」諸元用途: 大型航空機測定項目: 一般受信(単一方位確定)、手動受聴式、航路計式、A/N復調式運用周波数: 長波165-400KHz、中波400-1,000KHz電波形式: A1(非変調波)、A2・A3(変調波)受信構成: ストレート方式、空中線合成・位相反転回路、高周波増幅3段、検波、低周波増1段、唸発振(BFO)、AGC機能付、構成管五極管NF-2 x6電源装置: 直流回転式変圧器空中線装置: 方位測定用回転式枠型空中線(ループアンテナ)、補助垂直空中線(センスアンテナ)/兼通信用固定空中線、地線機体接地T式空4号補足 本方向探知機は受信機本体、ループアンテナ及び回転器、通信用空中線と兼用のセンスアンテナ、管制器、電源装置他により構成され、機上に於いて、一般受信、手動受聴式方位測定及び、航路計式、A/N復調式による帰投方位測定(ホーミング)を行う。 本方位測定機は受信同調や測定に関わる操作の一切を、ワイヤーケーブルを介し外部に設置した管制器により遠隔にて行う。また、同様に、方位測定に必要なループアンテナの回転操作も、管制器と同一の場所に設置した枠型空中線回転器により行う。