先般、「ヴィンテージ・昭和・レトロ・受信機・整流器一型・受信機翼板電流用」なる電源を、「ヤフオク!」で入手した。冷やかしで応札したところ、何と僅か3,900円で事務局員に落ち、誠に驚いた。 「整流器一型・受信機翼板(陽極)電源用」は相当残存機が有るのか、時折「ヤフオク!」で見かける。このため、必要とは考えていたが、食指が動かず、今日まで入手することは無かった。しかし、期せずして収集が完了し、誠に幸いである。 本電源は海軍の代表的な艦艇用受信機「92式特受信機」を構成する交流式電源で、陸上局等で使用する。入力は90-110V/50-60Hzで、出力は直流250Vであり、整流は双二極管5Z3による両波整流である。 とは言え、92式特受信機を本電源で運用する場合は、併せ、線條用電源として、別途直流又は交流6Vを用意する必要がある。 「ヤフオク!」に掲載された写真の当該電源は酷い汚れ様で、このため、入手希望者は殆ど居なかったと考えられる。しかし、実物は清掃をしてみれば、内部に錆は残るが、欠品も無い良品であった。また、製造が昭和16年(1941年)の事もあり、構成部品の品質も良い。92式特受信機補足 1926年に元号が大正より昭和に改まり暫くすると、艦隊通信は従来の長波帯に代え、小電力で遠達が可能な短波帯での運用が盛んになった。しかし、この時期艦隊が装備した主要受信機は、何れもが高周波増幅部に中和を施したニュートロダイン方式の、ストレート式であった。 一方、潜水艦隊に於いても短波帯への移行が進んでいたが、水上艦艇と比べ驚くほど狭小な電信室に、長波、短波用送受信機を各機複数台設置するのには限界があり、長波と短波帯が兼用可能な特別構造の送受信機の開発が強く要請された。 潜水艦隊の要望に応え、1931年(昭和6年)にYT式特3号送信機(長波1kW・短波500W)及び5号送信機(長波100W・短波100W)が明昭電機(後東洋通信機)により開発され、その翌年に92式特受信機が導入された。「特」とは長波、短波帯を兼用する特別型を表している。 この92式特受信機は、ストレート式長波受信部及び短波帯用コンバーター部により構成され、長波部は高周波増幅2段、再生(オートダイン)検波、低周波増幅1段構成で、コンバーター部を付加すると、高周波増幅2段、周波数変換、中間周波増幅2段、再生(オートダイン)検波、低周波増幅1段のスーパーヘテロダイン式受信機として動作する。 本機の同調コイルは差替式で、長中波帯20-1,500kHzを5バンドで、短波帯1,300-20,000kHzを5バンドで受信する。短波帯受信時、長波部は中間周波増幅部として動作するため、運用周波数帯に応じ、指定中間周波数に設定する。また、同調操作は短波帯用同調器により行う。 92式特受信機は導入以来、動作の安定を確保するのに時間を要し、幾多の改修が施されたが、1935年(昭和10年)の後半になり漸く完成の域に近づいた。 本受信機は潜水艦隊への配備を目的として開発されたが、改良型(3型以降)は使い勝手が良く、また、小型である事から海軍各部で重用され、艦隊の主要受信機として大戦終了まで使用された。92式特受信機改4型諸元用途: 艦艇用長波受信周波数: 20-1,500kHz(コイル差替式5バンド)短波受信周波数: 1,300-20,000KHz(コイル差替式5バンド)長波帯受信構成: ストレート方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、再生(オートダイン)検波(UZ-77)、低周波増幅1段(UY-238A)短波帯受信構成: 長波部に周波数変換部付加のスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅1段電源: 直流100/220V、直流/交流6V空中線装置: 艦艇装備固定式