先週、標記の真空管3本を「ヤフオク!」で入手した。当館(横浜旧軍無線通信資料館)は本送信管を複数本所蔵しており、特段入手の必要性も無かったが、然りとて無視をするのも偲びがたく、冷やかし程を応札した所、僅かな金額で事務局員に落ちた。 帝国陸海軍のレーダーに関わる送信管は希少性もあり、その昔はとんでもない価格で取引が行われていた。このため、今般の落札価格には誠に驚いた。しかし、入手したT-311の何れもが使用品で、ゲッターも白濁しており、このため、程度の不良が災いし、盛り上がりに欠けたものと考えられる。 ところで、T-311は東芝が大戦中に開発した超短波用の自然空冷式三極管で、海軍の可搬式対空警戒用レーダー「1号電波探信儀3型(13号電探)」や、陸軍の機上用警戒レーダー「タキ1号」の発振管として使用された。 特に13号電探は可搬式のため使い勝手が良く、また、高性能であったため、T-311も大量に生産され、戦後放出された在庫品は、高周波ミシンの発振管として大いに役立ち、産業の復興に貢献した。おそらく、入手管も状態から、これら工業用高周波ミシンに関係した物であったと推察される。超短波発振管T-311諸元(資料出典 電子管の歴史)用途: 極超短波発振管製造元: 東芝線條電圧/電流: 12V/6AGm: 3000μ℧増幅率: 16最大陽極電圧: 10000V最高周波数: 200MHz電極静電容量: Cpg(pF)海軍13号電探補足 本レーダーは大戦中期に導入された陸上部隊用の、可搬式対空警戒用レーダーである。13号電探は前線への配備を考慮した小型、軽量機材で、設置、取扱が容易な為、陸上使用と併せ、装備の一部を変更し、航空母艦より潜水艦まで、殆ど総ての海軍艦艇にも装備された。このため、13号電探の生産台数は2,000台を越え、海軍で最も成功した対空警戒用レーダーとなった。13号電探緒元用途: 対空警戒設置場所: 陸上・艦艇・潜水艦有効距離: 編隊100km以上、単機50km以上周波数: 150MHz帯繰返周波数: 500Hzパルス幅: 10μs送信尖頭出力: 10kW空中線: 半波長ダイポール水平2列4段、反射器付、送受兼用送信機: 発振管T-311 x2(P.P.)変調方式: パルス変調、変調管T-307受信機: スーパーヘテロダイン方式(11球)、高周波2段(UN-954 x2)、混合(UN-954)、局発(UN-955)、中間周波5段(RH-2 x5)、検波(RH-2)、低周波増幅1段(RH-2)中間周波数: 14.5MHz帯域幅: ±100kHz総合利得は120db以上信号表示: Aスコープ方式測定方法: 最大感度方式測距精度:2-3km測角精度: 10゜電源: 単相110/220V交流電源重量: 110kg製造: 東芝・安立、1,000台陸軍機上用探索レーダー「タキ1号」補足 タキ1号は陸軍が1943年(昭和18年)に開発した航空機搭載用探索レーダーの1号機で、タキ3号の開発が最終段階で中止となったため、陸軍航空隊唯一の実用索敵レーダーとして終戦まで使用された。タキ1号2型、3型諸元用途: 早期警戒周波数: 200MHz繰返周波数: 1,000Hzパルス幅: 5μs尖頭出力: 10kW2型空中線装置: 機首5素子八木1基、胴体両側面半波長ダイポール水平2列2段、送受兼用3型空中線装置: 機首5素子八木1基、両翼4素子八木各1基、送受兼用送信機: 発振管T-311( P.P.)変調方式: パルス変調、変調管UV-211受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅3段(UN-954 x3)、混合(UN-954)、局部発振(UN-955)、中間周波増幅4段(RH-4 x4)、検波(RH-4)、低周波増幅(RH-4)中間周波数: 9.5MHz帯域幅: 500kHz利得: 100db測定方法: 最大感度方式信号表示: Aスコープ方式掃引幅: 0-100km測定距離: 潜水艦15km、大型艦50km、艦隊100km(高度1,500m)測距精度: ±2km測角精度: ±5°電源: 直流交流変換器(入力直流24V、出力3相100V、750VA)総重量: 150kg製造: 日本無線