先般掲示の如く、当館(横浜旧軍無線通信資料館)は沖縄の「一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー・旧海軍司令部壕事業所」より、当時壕内で使用された通信機器についての問い合わせを受け、諸状況を勘案し以下の回答(要旨)を行った。 「当時海軍壕内で実用された無線装置は、送信機はTM式短移動無線電信機・送信機で、受信機は比較的電源の供給が容易な数台の92式特受信機であったと考えられる。」 その後、同事業所より担当者が日帰りで来館され、展示物の作成に向け綿密な資料調査を行い、見事なモックアップを作り上げられた。送信機、受信機にはウェザリングも施され、製作は一級技能士が担当されたとの事である。 本送受信機は既に壕内で展示が行われており、その様子はYouTubeにUPされている。https://www.youtube.com/watch?v=2DmGzbTxzrg ところで、海軍壕内で使用された無線機材の推測に際し、米軍が沖縄に上陸する一ヶ月ほど前に起こった、硫黄島での戦いが一つの参考資料となった。 この時、硫黄島に駐屯した海軍部隊も海軍司令部壕内に通信所を設置したが、通信装置にはTM式短移動無線電信機・送信機(TM式送信機)を使用したと考えられ、壕内には本送信機が残されている。 このTM式送信機については、2006年に放送されたフジテレビ系ドラマ「硫黄島・戦場の郵便配達員」、又は同年封切りの映画「硫黄島からの手紙」の何れかで、挟み込まれた実写フィルムの中で見た記憶がある。 早速その実写場面を入手すべく、「硫黄島からの手紙」をアマゾンで購入し内容を確認したが、TM式送信機は登場しなかった。 「硫黄島・戦場の郵便配達員」についてはTVドラマであり、入手に苦労したが、漸く知人よりCDを借用することが出来た。このドラマには短い実写フィルム、実写ビデオが多用されており、数回の見直しで、漸く該当のTM式送信機を発見する事が出来た。 映像で見るTM式送信機は、埃に埋もれてはいるが状態は非常に良く、当時の形状を明確に残している。今日、硫黄島に民間人は立ち入ることが出来ず、本送信機がどうなっているのかは不明である。しかし、変わること無く、今もなお壕内に鎮座していることを、心より願っている。TM式短移動無線電信機改2型送信機諸元用途: 海軍陸戦隊遠距離通信用送信周波数: 1,750-18,000kHz電波形式: 電信(A1)送信入力: 300W回路構成: 主発振UX-202、励振UV-814、電力増幅UV-812電源装置: 2馬力発動交流発電機、電圧調整機、整流機空中線装置: 逆L型仮設空中線又はロングワイヤー方式、地線は平衡地線方式92式特受信機改4型諸元用途: 艦艇用長波受信周波数: 20-1,500kHz(コイル差替式5バンド)短波受信周波数: 1,300-20,000kHz(コイル差替式5バンド)長波帯受信構成: ストレート方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、オートダイン検波(UZ-77)、低周波増幅1段(UY-238A)短波帯受信構成: 長波部に周波数変換部付加のスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅1段電源: 直流100/220V、直流/交流6V空中線装置: 艦艇装備固定式、陸上単線式掲示組写真補足 写真@、現在の沖縄海軍壕入り口。 写真A、海軍壕内信号室に展示され無線通信機のモックアップ。左がTM式短移動無線電信機・送信機、右が92式特受信機。 写真B、併せ展示されている通信機の運用状況を示すイラスト。 写真C 硫黄島の海軍壕内に残るTM式短移動無線電信機・送信機。