第2次大戦末期、ドイツ空軍は夜間戦闘機用のマイクロ波電波探知機「FuG-350Z」を開発した。この電波探知機は英軍爆撃機が搭載したP.P.I.式のマイクロ波レーダー「H2S(3,000MHz帯)」を捕捉する目的で開発されたが、本機は独創的な回転式誘電体空中線を装備していた。 大戦中ドイツの技術陣はマイクロ波には注目せず、この帯域のレーダー開発で大きな遅れをとってしまった。しかし、その後入手したH2Sを参考に、P.P.I.式レーダー「Berlin」を開発し、一矢を報いた。ドイツ技術陣はFuG-350と同様にBerlinにも誘電体空中線を使用したが、これは彼らの面子がそうさせたとも考えられる。 当館はこの誘電体空中線に大いなる興味を持ち、資料としてその入手を切望しているが、希少品のため可能性は殆ど無く、また、対価も膨大であろう。 ところで、先晩米国のNet Auctionで誘電体空中線を装備した「ねずみ取り」探知用レーダー「FOX XK RADAR DETECTOR」なる装置を発見した。出品者は国外への発送を希望せず、誠に困ったが、幸いにも、帝国陸軍の航空部隊用水晶片の入手を希望する米国の収集家との間で、物々交換の話が纏まり、先日品物が到着した。 「FOX XK」の発売は1980年代と考えられるが、本機はXバンド(10.525GHz)及びKバンド(24.15GHz)の2周波数対応で、前面には各用の誘電体空中線素子2基が装置されている。 空中線は共にアクリルを削ったもので、丸棒に成形された先端部がテーパー状となっており、この形状が入射波の反射散乱を防ぎ、電磁波を効率よく集めていると考えられる。 現在のところ、本空中線の利得や「FOX XK」の探知距離については不明であるが、ともあれ、誘電体空中線に関わる資料を入手する事が出来、誠に幸いである。誘電体空中線補足 マイクロ波電波探知機「FuG-350Z」を構成する空中線装置ZA-290Mは、ポリエチレン誘電体を装備する1/4波長ダイポール型空中線素子2基により構成されている。ダイポールに取付けられた誘電体の形状は円錐台形で、先端部は半球状に整形されている。 誘電体内を伝わる電磁波の速度は自由空間より遅く、内部では波長が短縮される。短縮率は誘電率の平方根に反比例するので、ポリエチレンの場合短縮率は大凡70%程度と考えられる。 このため、誘電体に入った電磁波は屈折してダイポールの中心に向かって収斂する。誘電体の形状が円筒であれば壁面は電磁波の入射と平行となる。しかし、形状が円錐台形のため反射散乱を防ぎ、結果、サイドローブは小さくなり、指向性、利得が向上すると考えられる。 電磁波を吸収するダイポール素子は誘電体基部に鋳込まれており、エレメントの長さは誘電体内波長にあわせて短縮されている。給電点は1/4λ分右側に寄せてあるが、これは水平偏波、水平配列のためで、二空中線素子の位相差を補正した結果である。 空中線ZA-290Mの利得についてはハッキリしないが、1素子で大凡5db、本器は2素子のスタック構成であるため、8db程度と推測される。掲示資料補足 組資料@はドイツ空軍の夜間戦闘機用マイクロ波電波探知機「FuG-350Z」を構成した回転式誘電体空中線である。 資料Aは誘電体空中線の概念図である。 写真Bは今般米国より入手した「ねずみ取り」探知用レーダー「FOX XK RADAR DETECTOR」である。 写真Cは「FOX XK」が装備する誘電体空中線で、太い素子がXバンド用、細い素子がKバンド用である。