スーパーヘテロダイン式受信機に於いて、第一局部発振回路を水晶による固定周波数発振方式とし、中間周波数を可変して受信同調を行うと、局部発振回路の周波数漂動が解消され、受信機の安定度は大きく改善される。 戦後米国のコリンズ社は本式のダブルスーパー式受信機により大成功を収め、以降この構成の受信機は「コリンズタイプ」と呼称される様になった。 「コリンズタイプ」式受信機の製品化が、何時であったのかは判然としない。しかし、戦中帝国海軍はシングルスーパーヘテロダイン構成ではあるが、本式の受信機「3式特受信機」を開発した。また、陸軍はVHF帯を使用した機上用の編隊内無線電話機「99式飛4号無線機」の受信機に本式を採用し、実戦配備を行った。 この事実は殆ど知られていないが、当時にあって、帝国陸海軍に於ける本式の実用化は特記に値する。このため、以下に於いて、「3式特受信機」について若干の概観を行った。 なお、「3式特受信機」は海軍の汎用受信機である「92式特受信機」の短波用局部発振回路を若干改修し、発振用同調コイルに水晶発振子を装備したものであり、本来は92式特受信機の改型と表記されるべき受信機である。92式特受信機の導入 1932年(昭和7年)、帝国海軍は潜水艦用として92式特受信機を導入した。本機は20-1,500kHz(5バンド)の長波帯と、1,300-20,000kHz(5バンド)の短波帯を一台の受信機で行う特型であるが、短波帯は長波帯のストレート式受信部に、短波帯用のコンバーターを付加したスーパーヘテロダイン構成である。 長波部は高周波増幅2段、検波、低周波増幅1段構成のストレート方式で、受信周波数帯域20-1,500kHzを5バンドで受信機するが、短波帯、長波帯共に周波数帯の変更は同調コイルの差替方式である。 短波帯受信時、長波部は中間周波増幅部以下として動作し、運用周波数帯に応じ、中間周波数に設定される。短波受信周波数帯と中間周波数となる長波帯受信周波数の関係は以下で、これらは「周波数割当表」に纏められ、受信機の前面に取付けられている。短波帯受信周波数/中間周波数1,300-2,600kHz/250kHz2,400-4,600kHz/400kHz4,200-8,400kHz/700kHz7,700-12,500kHz/1,200kHz11,500-20,000kHz/1,500kHz3式特受信機の導入 92式特受信機は使勝手が良く、改良型の改3型、改4型は海軍のあらゆる部署で広義に使用される迄になった。しかし、本機は短波帯に於ける局部発振周波数漂動の問題を抱えており、数次に亘る改修により、漸く待ち受け受信が可能となる安定度を何とか確保していた。 1943年(昭和18年)、この周波数漂動に関わる問題を一気に解決するため、海軍技術研究所電気部は、92式特受信機の短波帯局部発振回路を水晶制御方式とした「3式特受信機」を開発した。 本受信機は短波のフロントエンドを構成する第一局部発振回路を水晶制御方式として動作させ、受信同調は中間周波増幅部を構成する長波帯部の同調を可変して行う所謂「コリンズタイプ」で、短波帯の受信に際し抜群の周波数安定度を得た。 なお、3式特受信機の基本構成コイルは92式特受信機と同一で、之に特製の水晶制御式局部発振コイル7個を追加した構成である。水晶制御構成 3式特受信機に於ける短波帯の受信は、局部発振コイルに局部発振用水晶片を装置した特製の「水晶発振線輪(D6〜D12)」を使用し、短波部のフロントエンドをクリスタルコンバーターとして動作させ、受信同調は中間周波部を構成する長波部の受信周波数を可変して行う。 長波部は全短波帯に於いて、700-1600kHz受信用のE-1、F-1、G-1番コイルを装着するが、使用同調範囲は800-1600kHzで、短波帯2,400-20,000kHzを22バンドに分け、各バンドを800kHz幅で受信する。 局部発振回路は七極管Ut-6A7の三極部で構成される水晶無調整発振回路で、局部発振用コイルに装備される水晶発振子は1,600kHz(コイル番号D-6)、2,400kHz(D-7)、3,200kHz(D-8)、3,400kHz(D-9)、3,800kHz(D-10)、4,000kHz(D-11)、4,600kHz(D-12) の7周波数である。 水晶制御式の各局部発振コイルは受信周波数帯に応じ最大第6高調波までを使用し、2,400-20,000kHzを22バンドに分け受信機する。このため、全バンドの受信は受信機の前面に装置された「周波数割当及線輪表」に従い、7本の局部発振用線輪を使い回し、行う。 なお、22周波数の分割は既設92式特受信機の受信周波数帯域を便宜的に分けた物で、特製局部発振コイル以外の同調コイルは92式特受信機と同一のものを使用する。また、水晶制御式局部発振コイルを既設のL・C発振型に差替えると、本機は92式特受信機として動作をする。3式特受信機の運用 一例として、水晶制御方式により短波帯3,500kHzを受信する場合の、装備コイル、同調操作を以下に纏めた。 受信機前面に装置された「周波数割当及線輪表」に従い、短波部の高周波増幅1段部、2段部、周波数変換部に2,400-4,600kHz受信用のA-4、B-4、C-4番コイルを装着する。併せ、水晶制御式局部発振用コイルには、3,200-4,000kHzの受信が可能なD-7番を装着する。 同調操作を行う長波帯同調部には全短波帯に於いて、700-1600kHz受信用のE-1、F-1、G-1番コイルを装着するが、使用同調範囲は800-1,600kHzの800kHz帯域である。 以上の設定により3,200-4,000kHzの受信が可能となる。同調操作は長波同調ダイアルで行うが、併せ短波同調ダイアルでフロントエンドの同調を行い、最高感度を得る。周波数は添付の置換表により読み取る。 なお、2,400kHzの水晶片を装備した局発用D-7番線輪は高調波を利用し、併せ以下の周波数帯の受信に使用される。5,600-6,400kHz(第2高調波)、8,000-8,800kHz(第3高調波)、10,400-11,200kHz(第4高調波)、12,800-13,600kHz(第5高調波)、15,200-16,000kHZ(第6高調波)92式特受信機改4型諸元(主要構成は3式特と同一)用途: 艦艇用長波受信周波数: 20-1,500kHz(コイル差替式5バンド)短波受信周波数: 1,300-20,000kHz(コイル差替式5バンド)長波帯受信構成: ストレート方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、オートダイン検波(UZ-77)、低周波増幅1段(UY-238A)短波帯受信構成: 長波部に周波数変換部付加のスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅1段電源: 直流100/220V、直流/交流6V空中線装置: 艦艇装備固定式