この度、ベルギーの収集家よりドイツ空軍の機上用マイクロ波電波探知機「FuG-350Zc」を構成した誘電体空中線を、物々交換で入手した。 本機材、特に誘電体空中線は誠に稀少で、驚くほどの高額である。このため、入手は諦め、先般その代用資料として、同一原理の誘電体空中線を装備した「ネズミ取り」探知用のレーダー、「FOX XK」を米国より入手した経緯がある。 今般入手した誘電体空中線は実際に機上で使用されたものと考えられ、その状態は不良で、また、二個一の可能性もある。しかし、これは事前に分かっていた事であり、問題はない。 何れにせよ、本空中線は当館(横浜旧軍無線通信資料館)にとつて値千金であり、驚愕の入手品である。これで長年の懸案が一つ解決し、誠に幸いである。「FuG350Zc」 本機はドイツ空軍の夜間戦闘機が搭載したマイクロ波帯用の電波探知機で、英軍爆撃機が装備したPPI式のマイクロ波レーダー「H2S(3,000MHz帯)」を捕捉する目的で開発されたが、装置の構成としては鉱石式受信機である。 探知機は回転式の誘電体空中線装置、信号検波装置、受信波の方位を表示する波形指示器及び電源装置により構成され、各部の構造、動作は以下の様なものである。☆誘電体空中線装置(EA350Zb) 本装置は回転式構造の誘電体空中線素子、駆動用モーター及び、波形指示器の掃引信号発生用の二相交流発電機により構成されている。 二相交流発電機は空中線と同期して回転し、発生する22Hzの交流電圧を掃引用信号として波形指示器に出力する。 空中線本体はポリエチレン誘電体を装備する1/4波長ダイポール型空中線素子2基により構成され、配列は水平二列である。また、誘電体の形状は円錐台形で、最大直径と最少径の比は約1.25である。 空中線素子は1300rpm(22回転/秒)で回転し、回転式空中線シャフトと接線の接合部は同軸構造で、接続は容量結合方式である。 高速で回転する空中線の保護用として、上部は透明の樹脂ケースにより覆われている。本空中線装置の直径は47.5cm、高さは61cmで、重量は25Kgである。☆信号検波装置(HP350Zb) 本装置を構成する検波器(ED701)はシリコンの精製物である。信号検波装置は空中線装置の下部に取り付けられる。☆波形指示器(SG350Zc) 本器は信号増幅回路、受信信号の方位を表示する静電偏向式ブラウン管(CRT)回路により構成されている。空中線装置から供給される90°位相が異なる二相交流電圧は、垂直、水平偏向板に加圧され、時間軸はCRTの内縁に沿い円周に表示され、空中線に同期して1秒間に22回転する。 受信信号はシリコン検波器により検波され、CRTの格子回路に加圧される。波形指示回路は空中線の回転に同期して走査されるため、信号強度に従い該当位置が輝度増強される。このため、輝度信号の位置により、受信波(敵機)の方位を知ることが出来る。しかし、距離を確定する事は出来ない。誘電体型空中線装置使用機材 本空中線装置はドイツ空軍が大戦末期に開発したP.P.I.方式の航法・爆撃用レーダー、「Berlin」にも使用された。おそらく使用例はFuG350Zc、本機の海軍版であるFuMb23/28 及びBerlinの3機種と考えられる。FuG350Zc( Naxos ZM4)緒元用 途: 夜間戦闘機接敵運用波長(周波数): 8-12cm(2,500-3,800MHz)電波形式: 振幅変調波(A3)、パルス変調波受信機構成: 鉱石検波、低周波増幅6段、信号波形表示波形表示: 輝度変調探索距離: 100km(H2s輻射機高度差2000m)、50km(高度差1000m)主装置構成真空管: 低周波増幅RV12P2000(五極管) x6、電源整流RG12D60(双二極管)、定電圧放電管STV150/15波形指示器構成真空管: 低周波増幅EF14(五極管)x4、ブラウン管DG712、電源高圧整流LG3(二極管)空中線: 回転式誘電体型空中線(EA350Zb)電源装置: 直流回転式変圧器(入力直流28V、出力交流220V)