今般、かねてより当館(横浜旧軍無線通信資料館)の技術調査員である安齊穂積君により進められていた、海軍「試製全波受信機」の修復が完了した。 この受信機は丁度10年前、馴染みの骨董商が発見し、購入してくれた物であるが、その状態は掲示写真「試製全波受信機原状」の如く、前面パネルや同調機構、遮蔽板、周囲の覆バネル他が欠落した誠に酷いものであった。しかし、不思議な事に、何故か同調ダイアル目盛盤は付属しており、幸いにも正式な機材名と製造年月日を知る事が出来た。 さて、安齊君は先に修復を完了させた類似受信機、海軍「全波受信機」を参考に、欠品部品の全てを製作し、試製受信機の修復を行ったが、その努力は大変なもので、誠感謝に堪えない。 当館は安齊君の貢献により、誠に稀少な海軍「全波受信機」及び「試製全波受信機」の二機材を動態で所蔵する事になり、誠に幸いである。海軍「全波受信機」 本受信機は高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式で、運用周波数500-22,000kHzを6バンドで受信する。しかし何故か、A1信号復調用のBFO機能は具えていない。 同調コイルはターレット構成の内蔵式であるが、切換機構の構造は、海軍の97式短受信機と同一である。 受信機本体の容積は33.5x24.5x22.5cmで、重量は15.6kgである。本受信機の電源は線條用が直流/交流100V、高圧が直流100/200Vで、電源構成は艦艇仕様である。 本「全波本受信機」は低周波増幅二段部(UZ-41P.P.構成)を除く各段が、マツダの五極管RC-4により構成されている。当館が確認した限り、RC-4を使用した機材は本受信機及び今般修復が完了した「試製全波受信機」の二機種である。海軍「試製全波受信機」 本受信機は構成管、構造共に「全波受信機」に準拠するも、BFO機能が追加され、構成管は10本となった。このため、本体のサイズは「全波受信機」と比べ若干大きく、35x24x23.8cmである。また、線條回路の入力電圧は全波受信機の100Vとは異なり、6.3V構成である。 「試製全波受信機」の製造は1944年(昭和19年)11月で、所蔵する「全波受信機」(昭和19年4月)と比べ新しく、また、各部の構造も簡素化が進んでいる。 本受信機は「全波受信機」にBFO 機能を付加し、併せ、陸上使用を考慮し、線條電圧を6.3Vに変更し、より汎用性を高めた仕様と考えられる。海軍「試製全波受信機」諸元受信周波数: 500-22,000kHz(6バンド)電波型式: 電話(A3)、変調電信(A2)構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段、第1検波、中間周波増幅2段、第2検波(陽極検波)、低周波増幅1段、低周波増幅2段(UZ-41P.P.構成)、BFO機能付き、AGC機能無し、構成管RC-4九本、UZ-41二本中間周波数: 450kHz電源: 外部電源方式、線條電圧6.3V、高圧直流100V/200V選択式製造: 高梨製作所