先般米国の収集家より、帝国海軍の「2式磁気探知機4型」なる機材の資料を入手した。本機は海軍技術研究所音響研究部が1943年(昭和18年)に開発した陸戦隊用の磁気探知機で、鉄製兵器を携行する敵兵士の接近を検出するが、装置の構成は潜水艦探知機材である「2式磁気探知機1型・2型」に類似している。 ところで、米軍資料の「2式磁気探知機4型」であるが、帝国海軍の資料によると、該当探知機は「仮称3式磁気探知機4型」と標記されている。本機の導入は昭和18年で、3式の標記は妥当であり、このため、当稿では「仮称3式磁気探知機4型」に統一した。米軍資料について 本資料は米国の鹵獲兵器調査機関であるEnemy Equipment Intelligence Service(E.E.I.S.)がビルマで英軍が鹵獲した「仮称3式磁気探知機4型」を、調査、評価した報告書である。しかし、英軍が入手したのは電源と探知ループ接続函等で、検知を行う主装置は無く、記述内容も推測の域を出ない物であった。 当館(横浜旧軍無線通信資料館)は港湾、海峡を敵潜水艦より防備する「2式磁気探知機1型・2型」に関わる若干の構成機材を所蔵しており、本機は編纂作業の対象とした。一方、一切の資料を所蔵しない「仮称3式磁気探知機4型」については、その対象外としていた。 しかし、今般提供を受けたE.E.I.S.の資料には鹵獲機材の一部写真が含まれており、このため、急遽編纂作業の対象とする事にした。先ず「2式磁気探知機1型・2型」を概観 2式磁気探知機1型・2型は沿岸、湾口防備用の対潜水艦哨戒兵器で、海底に敷設した感知コイルの上を艦艇が通過すると、その磁気を検知して警報する。 装置は磁気を感知する2個の感応コイル、2組の感応コイルを均衡させる補償抵抗器、誘起電圧を検出する磁気検知器(鋭感検電器)、微弱検出電流を増幅する光電管式信号増幅器、検出信号を記録する記録器、及び信号を判別し警報を発する警報表示器(選択機)等により構成されている。 1型と2型の動作原理は同一であるが、1型は磁気の検知に2個の官能コイルを使用し、2型は2個の官能ループコイルを使用する。実際に配備された2式磁気探知機の殆どは2型である。 海底に敷設された検知コイルの出力は、キャブタイヤにより引き込まれ、警備衛所に設置された監視装置に接続された。監視員は信号選択表示器の警報や波形記録器の出力、併設される水中聴音機の反応、目視による海上監視結果等を総合的に判断し、検知物が潜水艦であるのかを判定した。 なお、2式磁気探知機1型・2型の磁気検知は探知コイルに発生する誘起電圧を反照式高感度検流計(ガルバノメーター)により行い、この反射鏡に強い光源を投射して、反射光の僅かな変化を光電管で検知し、増幅を行う方式である。自動平衡ブリッジ式磁気検知器(記録器)の開発 2式磁気探知機 1型・2型は内外の要地に配備されたが、鋭感ガルバノメーターを使用した磁気検知装置は細密、繊細で用兵の運用には適さず、之に変わる頑丈な磁気検知装置の導入が強く要望された。 この時期、呉海軍工廠電気実験部では艦船装備の磁気探知用として増幅器及び記録電流計を研究、実験中であったが、大倉電気研究所が考案した自動平衡ブリッジに着目し、同研究所にこれを利用した微弱電圧記録装置の開発を依頼した。しかし、納付された本器は電気実験部が開発した検知器に比べ特段の優位点は無く、また、動作が不安定で採用には至らなかった。 その後、海軍技術研究所音響研究部は、この自動平衡ブリッジの原理を活用すれば、2式磁気探知機(1型・2型)の微弱電圧検知装置を開発出来ると考え、以降大倉電気研究所との連携を深めた。 1943年(昭和18年)1月、音響研究部仕様の検知器が完成し、本器の性能は期待以上で、これを2式磁気探知機1型・2型用として使用すべく実用研究が進められた。 この装置は磁気探知コイルで検出した微弱磁気電圧を自動平衡ブリッジ回路を構成する基本電圧(乾電池)と比較し、差分の誘起電圧を交流信号に変換して増幅の後、可逆電動機(サーボモーター)の制御巻線に加圧する。 増幅器の出力電圧によりサーボモーターは回転し、ブリッジ回路を構成する平衡用の滑可変抵抗器を駆動するが、ブリッジ回路が平衡し出力が0Vになると停止する。この抵抗器にはペンが装置されており、出力される波形により磁気を検知すること事が出来る。「仮称3式式磁気探知機4型」の開発 一方、この時期ソロモン諸島、ガダルカナル島方面での陸上戦闘は困難を極めており、武器を携行する兵員を暗夜や密林中で発見できる装置への強い要望があった。音響兵器部に於ける実験の結果、2式磁気探知機2型を使用して、小銃1挺を携行する兵士が約300mのループコイル上を通過すると、これを検知できる事が確認された。 このため、先に開発した自動平衡ブリッジ式記録器に所要の改造を加え、これを検知装置とした陸戦用の磁気探知機が直ちに試作される事に成った。 本機の磁気検知用コイルは2式磁気探知機2型とほぼ同一のループ構成であるが、検知部は大倉電気研究所の増幅式自動平衡ブリッジ及び横河電機のペンレコーダーを参考に開発された。この時代に在っては、増幅式自動平衡ブリッジを使用した記録装置は最先端技術であった。 開発された対歩兵用磁気探知機は1943年3月下旬から4月上旬にかけ館山海軍砲術学校で3回の動作実験が行われ、その性能は極めて良好である事が確認された。この試作機は「仮称3式磁気探知機4型」として兵器化され、1,000組の製造が確定した。 なお、「仮称3式磁気探知機4型」の詳細については現在調査中である。また、自動平衡ブリッジ構成の微弱電圧検知装置が2式磁気探知機1型・2型に使用されたのかは不明である。