-(240 KB)先般、横浜市泉区の泉川遊水地で開催されたジャンク市にて、マツダが1930年代の初頭に開発したと考えられる五極送信管「UV-1083」を通称「香水商店」より購入した。店主は、著名な収集家である香水清久氏である。
この時代、送信管は四極管が主流であったが、本管には陽極より放射される二次電子に起因する負性抵抗特性が存在した。この現象は「ダイナトロン特性」とも呼ばれ、寄生振動の原因となっていた。
このため、1930年代の初頭より、二次電子を抑圧する第三電極を備えた五極送信管の開発が進められ、今般入手したマツダ製UV-1083は、その先駆けとなった中型電力増幅管である。
本管は、1934年(昭和9年)より逐次実施された陸軍の第三次制式制定作業において、軍通信隊用の中距離通信機材「94式2号甲無線機」を構成する送信機の電力増幅管として使用された。また、開発が中止された機材での使用例には、第四次制式制定に向け研究が進められた「超重無線機」がある。
しかし、「94式2号甲無線機」は制式化後、間もなくして不整備となり、今日まで現存機が確認された例はない。「不整備」とは、追加生産および配備が行われなかったことを示唆する。その意味でも、今般、本機材を構成した送信管UV-1083を入手できたことは、誠に幸いであった。
ところで、驚いたことに、このUV-1083を使用した自作A級アンプの映像がYouTubeにアップされていた。もっとも、音質はあまり芳しくないようである。
https://www.youtube.com/watch?v=io4sWAqlWKA
UV-1083諸元
線條電圧: 10V
線條電流: 6A
陽極電圧: 2,000V
第2格子電圧: 500V
第3格子電圧: 0V
第1格子電圧: +40V
陽極電流: 132mA
相互コンダクタンス: 1,100µ℧
許容陽極損失: 200W
最大入力: 300W
冷却方式: 大気自然冷却式
「94式2号甲無線機」補足
本機は、1934年(昭和9年)より暫時実施された第三次制式制定作業において制式化された軍通信隊用の中距離通信機材であり、定格通信距離は200kmである。無線装置は、54号A型送信機、発動発電機式電源、配電盤、27号型受信機2台、送信機の遠隔操作装置および空中線装置等により構成され、運搬は基本的に自動貨車1輌で行った。
送信機の運用周波数は950〜7,500kHz、電波形式は電信専用であり、送信出力は100〜150Wである。受信機には、陸軍通信部隊の上級機材を構成した27号型受信機2台を装備した。
94式2号甲無線機諸元
用途:軍通信隊
電波型式:電信(A1)
通信距離:200km
運用周波数:送信950〜7,500kHz、受信140〜15,000kHz
送信機:出力100〜150W、水晶または主発振UY-510A、電力増幅UV-1083
送信機電源:2.4馬力単気筒ガソリン発動発電機
受信機:27号型2台、スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段、中間周波増幅1段、低周波増幅2段
受信機電源:乾電池
空中線装置:逆L型、柱高10m、水平長20m以下、地線20m裸線4条、単独受信空中線装置不明
遠隔運用装置:5号A型操縦機、5号A型中継器
運搬:基本自動貨車1輌
開設撤収:兵6名にて20〜30分
総重量: 700kg
-(270 KB)今般、ネットオークションにて標記の送信機を入手した。地3号無線機は第四次制式制定作業において兵器化された陸軍航空部隊の近距離用対空・対地通信機材であり、本機には原型・中期型および後期型の3機種が確認されている。
当館は本無線装置を構成する原型および中期型送信機は所蔵しているが、大戦末期に導入された後期型送信機は未入手であった。本型の送信機については長年入手を画策していたが、今日までその機会がなく、また実物を検分したこともなかった。このため、本機材の収集を完了させるべく、今般は無理をしてこれを落札した。
さて、入手した送信機は同調コイルが欠品していたが、他に大きな不具合はなく、程度としては良好の部類であった。しかし、末期型機材であるため、簡素化が顕著で、また配線も粗く、予想はしていたものの、若干驚かされた。とはいえ、これにて地3号無線機に関わる送信機の収集は完了し、誠に幸いであった。
なお、地3号無線機各型の送信機は、構造に若干の差異があるものの、回路構成に大きな違いはない。しかし、後期型では、各部が大幅に簡略化されている。
地3号無線機補足
本機は陸軍航空部隊の近距離用対空・対地通信機材であるが、実際には軽便な汎用機材として各部門で広く使用された。本機は中型航空機による輸送を考慮して設計されており、構成装置各部は小型軽量で、必要に応じて人力による運搬も可能であった。
送信機回路構成
本機は発振、電力増幅方式で、変調は電力増幅管の第1格子変調ある。運用周波数は1,500〜6,675kHzで、この周波数帯を差替式コイル3本で対応するが、発振段及び電力増幅段を構成する同調コイルは、同一ケースに収容されている。
発振は五極管UZ-6D6によるピアスGP水晶発振回路であるが、水晶片を取外すと単一コイルによる陽極同調型発振回路として動作する。また、装備する水晶片は航空部隊用の「飛号型発振具」である。
電力増幅段はビーム管UY-807A二本の並列使用によるC級増幅回路で、制御バイアス電圧は高圧電流帰還回路で発生させる半固定式である。タンク回路は蓄電器により陽極高圧回路より切り離された並列給電構成であり、同調確認用のネオン管が装備されている。
電力増幅管の陽極電圧は600Vで、送信出力はA1が40W、A2・A3は8Wである。タンク回路の出力側コイルの片側は接地され、空中線同調回路を併せ構成する。
発振、増幅、空中線各段の同調回路は独立した可変式蓄電器により構成され、同調機構はバーニアダイアル方式であるが、後期型では簡略化され、ツバ付ノブによる直接回転式に変更された。
空中線同調回路は片線接地式タンク出力コイル、インダクタンス切替式空中線延長コイル、同調用可変蓄電器及び高周波電流計より成り、接地型空中線同調回路を構成する。本回路は電流饋電方式により、全運用周波数帯を基本1/4波長で固定空中線に同調させる。
地3号無線機の運用形態は、第四次制式機材に共通して、電信は電鍵操作によるブレークイン方式、電話は電鍵操作による変則的なプレストーク方式である。
地3号無線機諸元
用途: 対空・対地通信
通信距離:100km
送信周波数: 1,500〜6,675kHz
電波型式: 電信(A1)、変調電信(A2)、電話(A3)
送信機構成: A1出力40W、A2・A3出力8W、水晶又は主発振UZ-6D6、電力増幅UY-807A x2並列構成、第1格子変調UZ-6D6
送信機電源: 0.6馬力発動発電機、交流式電源
送信空中線装置: 逆L型、柱高6m、水平長20m、地線は地網2枚
受信周波数: 1,500〜8,900kHz
受信機構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UZ-78)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅1段(UZ-78)、オートダイン・再生式検波(UZ-78)、低周波増幅1段(UZ-78)
中間周波数: 450kHz
受信機電源: 直流回転式変圧器及び6V蓄電池
受信空中線装置: 直操時は送信空中線と共用、遠操時用は不明
-(285 KB)今般、浜松陸軍飛行学校が1939年(昭和14年)に作成した標記の資料を入手した。九四式飛二号無線機は1936年(昭和11年)に実施された第三次制式制定作業において兵器化された大型・中型航空機用無線機材であり、本取扱法はその運用教育の補助資料として使用されたものと考えられる。
帝国陸海軍の航空部隊に共通して、機上無線機に関わる取扱説明書は非常に少なく、今般の入手は誠に幸いであった。当館は九四式飛二号無線機の構成機材を各種所蔵するが、送信機は未所蔵である。願わくば、この流れで送信機も是非入手したいものである。
九四式飛二号無線機について
第三次制式制定作業において、本機(研究名15号無線電信機)は当初、対地通信距離600km(電信)の中型航空機用として研究され、重爆撃機等の大型機用については、同時期に開発が進められた通信距離1,000kmの14号無線電信機(予定九四式飛一号無線機)が予定されていた。
しかし、14号無線電信機は重量および容積が過大となり、制式化が困難な状況となった。このため、15号無線電信機が中型・大型航空機に搭載される運びとなり、通信距離1,000kmの問題は運用周波数の選定により解決することとなった。
本経緯により、九四式飛二号無線機は第三次制式制定作業における唯一の中・長距離通信用機材として、単座戦闘機を除く全ての航空機に搭載された。
九四式飛二号無線機参考資料「翼の凱歌」
本作品は1942年(昭和17年)に公開された東宝製作の戦争映画である。ストーリーは、操縦士であった父を墜落事故で失った兄弟が、それぞれ陸軍のエース・パイロット、テスト・パイロットへと成長する物語である。
この映画の撮影には陸軍航空本部が全面的に協力し、登場する一式戦闘機の飛行には実機が使用された。また、一式戦闘機のテスト飛行場面では、対空通信を行う九四式飛二号無線機が、実際の通信操作を再現した状況で頻繁に登場する。
[https://www.youtube.com/watch?v=M1OjPJ8mCLY](https://www.youtube.com/watch?v=M1OjPJ8mCLY)
九四式飛二号無線機諸元
用途:中・大型航空機
通信距離:600〜1,000km(電信)
運用周波数:送信1,500〜7,500kHz、受信1,500〜7,500kHz
電波形式:電信(A1)、電話(A3)
送信機:A1出力20W、A3出力10W、水晶または主発振UX-865、電力増幅UX-865×2並列使用
変調機:音声増幅UZ-89、陽極変調UZ-79(三極部P.P.)
受信機:スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UZ-77)、周波数変換(UT-6A7)、中間周波1段(UZ-78)、再生検波(UY-37)、低周波増幅1段(UZ-41)
電源装置(送受兼用):入力24V、直流回転式変圧器、当初は風車発電式
空中線装置:垂下式、固定逆L型(要空中線延長コイル)、地線―機体接地
-(272 KB)先般、対を成す標記モーターをネットオークションで入手した。本機は、回転機構の角度指示や情報伝達に使用される多相回転機であるが、帝国海軍の射撃管制用レーダーでは、セルシンを仰角・方位角の測定部に装備し、各指示角の自動伝送を行っていた。
地味な製品ではあるが、当館(横浜旧軍無線通信資料館)では資料として、帝国陸海軍が使用したセルシンを長年探していたものの、今日まで入手の機会がなかった。このため、製造は戦後であるが、戦前・戦中のセルシンと同一構造の物を取りあえず入手した。
到着した落札物は、発信機、受信機および給電用トランスの一式であるが、確認すると、なぜか受信機の指示針取付け用の軸が折れていた。そう簡単に折れるものではないが、ネットオークションのことであり、これも致し方ない。
取りあえず懸案が一つ解消し、幸いであった。
セルシン補足
セルシンは、回転軸の位置を検出する多相回転機の総称であり、JISにおける呼称は「シンクロ電機」である。
本機は、回転子側に一次コイル、固定子側に120度間隔で放射状に配置された3個の二次コイルを有する回転変圧器であり、角度検出には発信機および受信機の2機を対で使用する。
発信用セルシンの回転子に交流電流を流すと、誘導により固定子の3個の二次コイルに正弦電圧が発生する。この電圧を受信側セルシンの二次コイルに、併せ交流電圧を回転子に加えると、受信機の回転子は発信機の回転子の角度に同期して回転する。
-(285 KB)既に掲示のとおり、先般自動車・内燃機関修復家である内和雅仁氏により、当館(横浜旧軍無線通信資料館)が所蔵する「地3号無線機」の送信機用発動発電機、及び米国海軍の移動無線機「TBX」を構成する発動発電機の修復が完了した。
これに続き、今般陸軍航空隊の「地2号無線機」の送信機を構成する発動発電機の修復作業が始まった。既に発電装置は分解済みで、各部の補修作業が始まっており、間もなくして動作時の様態に復帰すると考えられる。
前回もそうであったが、当掲示板では動画を掲示することが出来ず誠に残念である。当館は周知活動の主軸をFacebookに移して久しい。先に修復が完了した発動発電機の動画もFBにアップ済みである。
このため、FBにアクセスが可能な方は、是非お訪ね願いたい。
-(281 KB)先般、久しぶりに有線通信機材である「移動式印字電信機」を入手した。当館(横浜旧軍無線通信資料館)は無線通信資料館であるため、有線通信機材の収蔵には力が入っていないが、「移動式印字電信機」は陸軍の野戦でも使用された基本的な有線通信機材であるため、資料として必要であった。
入手した「移動式印字電信機」は、本体を収容する木箱は失われていたが、装置自体の程度は良好で、また送受信に際して線路に流れる電流の確認を行う検流計の可動指針部も付属しており、誠に幸いであった。これまで各種の類似電信機を検分してきたが、指針部が揃っている電信機に巡り会ったことはなく、初めてその構造を確認することができた。
これら有線電信機の基本は、電鍵、一次電池電源、通信路、検流計、有極継電器で構成されるループ回路で、電鍵を叩くと通信回路に電流が流れ、対向の有極継電器が動作する。有極継電器は二次電源電池および電磁石式印字機、または音響器(サウンダー)により信号受信回路を構成し、印字または音響により通信電信符号を再生する。
印字式電信機には各種があるが、その代表機材は逓信省が使用した「逓信省型標準印字電信機」である。本機は逓信省が管轄した有線電信部門の殆どの端末で使用されたが、その導入は明治初期であり、以降変わることなく昭和初期まで使用された。
今般入手した「移動式印字電信機」は「逓信省型標準印字電信機」の小型版で、その基本構造および動作は同一であるが、出力は印字方式のみで、サウンダー用出力回路は備えていない。
なお、帝国陸軍は今般入手した「移動式印字電信機」と同一構造の電信機を野戦で使用したが、当該物品が陸軍の調達品であったのかは不明である。
-(272 KB)この度、東京都武蔵村山市在住の石川清治殿より、陸軍の「94式3号甲・乙無線機」を構成する受信機の、同調コイル4本をご寄贈いただきました。
石川殿のご高配に、心より感謝申し上げます。
現在、石川殿は陸軍航空部隊の汎用受信機である「ム-65受信機」の修復に取り組まれており、その作業はほぼ完了しております。当館は本修復に関し、若干の資料を提供した経緯があり、その完成を楽しみにしております。
「94式3号甲・乙無線機」
本機材は、陸軍通信隊の可搬式無線機材であり、軍通信隊、師団通信隊、ならびに騎兵部隊(車両編成偵察部隊)において広く使用された傑作無線装置です。このうち、3号乙無線機は、同一構造の受信機で構成された副受信装置を装備し、主として師団通信隊で使用されました。
94式3号甲無線機(36号型通信機)諸元
用途:騎兵部隊、軍通信隊
通信距離:80km
周波数:送信 400〜5,700kHz、受信 350〜6,000kHz
電波形式:電信(A1)
送信機:出力10W、水晶または主発振(UY-510B)
送信機電源:29号手回発電機
受信機:スーパーヘテロダイン方式
高周波増幅1段、中間周波増幅1段、再生式検波、低周波増幅2段
使用真空管(UF-134、UZ-135、UF-134、UF-109A、UZ-133D)
中間周波数:270kHz
受信機電源:乾電池 B-18型(22.5V)×4、平角3号(1.5V)、C-129(−3V)
空中線:逆L型(柱高7m、線条20m、地線20m〈被覆線〉)
副受信機(別掲):53号C型、1939年(昭和14年)頃 不整備
運搬:駄馬2頭
開設・撤収:兵6名にて10〜20分
整備数:650機
-(289 KB)この度、電子管の研究家として知られる岡田章殿より、下記の品々をご寄贈いただきました。岡田殿には、日頃より当館(横浜旧軍無線通信資料館)が必要とする各種真空管をご提供いただいており、平素からのご高配とご協力に対し、心より感謝申し上げます。
御寄贈品
☆ 発振管 BK-20(日本無線製)二本(うち一本は元箱入り・試験表付)
☆ TR放電管 B-3(マツダ製)
☆ 高圧整流管 KX-142(理研製)
上記のうち BK-20 は、独逸ドレスデン工科大学の教授バルクハウゼン(Barkhausen)と助手クルツ(Kurz)により発明された Barkhausen–Kurz 振動管(BK 振動管)です。当館ではこれまで BK 管を所蔵したことがなく、今般のご寄贈により、長年の念願であった同管を入手することができ、誠に幸いに存じます。
また、TR放電管 B-3 は、帝国海軍の後期型 VHF レーダーにおいて、受信機入力回路を強力な自送信波から保護するために用いられた送受信切替管であり、今日では誠に貴重な陸海軍レーダー関連真空管の一つです。
-(284 KB)
新年明けましておめでとうございます。
本年が皆様にとりまして、幸多き年となりますよう、心より祈念いたします。
2026年 元旦
横浜旧軍無線通信資料館
土居 隆
-(267 KB)先般掲示の如く、自動車・内燃機関修復家の内和雅仁氏により進められていた陸軍航空部隊の地3号無線機を構成した送信機用発動発電機の修復が完了した。この発動発電機は米国からの買い戻し品で、前所有者により内部が弄られていたが、内和氏の努力により動作状態に復帰した。氏のご協力に、心より感謝申し上げる。
なお、参考資料として、本発電装置と修復作業の概要について掲示した。
発動発電機概要
本装置は発動発電機及び小型の配電盤により構成されている。発動発電機は単気筒0.6馬力の2サイクル空冷式ガソリン機関及び高圧・低圧直流発電機により構成され、起動はスタートロープによる手動式である。発動機の回転数は3,500rpmで、高圧出力は600V(0.22A)、低圧出力は8V(4A)である。
配電盤は発動発電機より供給される電力を受電し、送信機に配電を行う。配電盤は過負荷継電器、自動電圧調整器、監視計器等により構成され、発生電圧の制御、監視及び過電流を防止し、発電機の保護を行う。
本発電装置は送信機を介し、受信機の一次電源である6Vを供給し、併せ、受信機の蓄電池を充電する事が出来る。発動発電機の最大容積は33×42×23cmで、重量は約20kgである。
地3号無線機発動発電機諸元
発動機: 2サイクル方式
出力: 0.6馬力
回転数: 3,500rpm
燃料: 混合ガソリン
発電機出力(直流): 高圧600V、低圧8V
最大容積: 33×42×23cm
重量: 20kg
製造元: 三國商工株式会社
修復作業概観
内和氏より提供頂いた発動発電機修復の要旨は以下である。
・現状の確認
圧縮有り、点火はわずかにスパークあり、プラグコードは使用不可の状態である。ピストンの固着は無いが、ベアリングのゴロゴロ音が感じられた。
・分解
汎用プーラーを加工して、フライホイールを取り外す。内部には高圧発生用コイル、ポイントが一体の円形プレートに固定されており、点火時期の微調整が可能な構造である。各部を取り外し、各接点の研磨、絶縁状態のチェックを行い、おおむね良好であることを確認した。最初の状態に組み付け、プラグコードを代用品と交換した。起動ロープでフライホイールを回転させると、始動が可能な火花を確認できたので、本格的分解作業に入る。
燃料タンクフレームを外し、エンジンもベースから取り外す。燃料タンクに腐食は無いが汚れがあったのでキャブクリーナーを内部に塗布し、ブラシ等で清掃した。燃料コックも分解したが、パッキン等は無く、テーパー面をスプリングで押し付けただけの構造である。取り敢えず、パッキンを追加した。タンクキャップは裏表の両用で、運搬時の密閉と、運転時のエア抜き穴側を使い分ける構造である。
キャブレターは過去に分解された際、フロートを逆に組んだため亀裂が入っていた。このため、ハンダで穴埋めをし、ニードル部も荒れていたので紙やすりで仕上げた。キャブレターは吸い口の金網をずらすと小径の穴になり、冷間始動用のチョークになる。キャブレターピストンバルブにはクロームメッキが施されており、摩耗もなく良好であった。
キャブジェットはメインとスローで調整スクリュー等は無く、セッティングの変更は出来ない。分解清掃を行い、フランジガスケットをスリーボンド製シートで製作して取り付けた。後日、試運転時にキャブのオーバーフローが発生したので、ニードル先端をボール盤で回転させながら修正後、相手側とコンパウンドですり合わせを行った。
・エンジンアウトプット側分解
ファンカバーの金網を取り外し、空冷ファンと一体のアウトプットを取り外す。裏面は放射状の溝構造で、そこに鉄球が3個組み込まれ、遠心ガバナー機構を構成している。シリンダーヘッド、シリンダー、ピストンの取り外しを行い点検するが、各部の状態は概ね良好であった。しかし、クランクには若干錆が見受けられた。また、ヘッドの固定ネジが1本折れていた。
クランクケースは前後に分離でき、ガスケットの厚みでクリアランスが変わる構造である。ヘッドガスケットは厚いアルミのリングを、シリンダーの上部にはめる構造である。現品は磨いて再使用した。
クランクベアリングはNTN製で、錆による虫食いが発生していた。幸い現代と同様の規格のため、NSK製の金属プレス保持器式の物に変更した。分割クランクのためベアリング交換後はダイヤルゲージで測定して、銅ハンマーの加打によりゲージの振れで5/1000まで調整した。
・組み立て
ケースをヒーターで温め、ベアリング圧入時の負荷を減らして組み付けを行った。シリンダーのスタッドボルトは1本のみ新規製作のものに変更した。メインケースの組付けが完了後、点火ユニットの取付、不良であったプラグコードを新たに作成した。スパークプラグは付属していた米国チャンピオン製のものを、再使用した。
フライホイール組付け時、フライホイールの勘合部とクランクにキーが噛み込み、内側から盛り上がっているのを発見した。過去に、半月キーがずれたまま組み込みを行った結果である。この部分は点火のポイント開閉のカムを兼ねている重要な場所である。このため、フライホイールを旋盤にかけ凸部分を切削し、サンドペーパーで研磨仕上げをして修復した。
・始動テスト
当初、始動はうまくいくが、2度目の起動が困難であった。クランクケースのドレンを開け、プラグを外し、何度かクランキングをして残留ガスを十分に飛ばすと、再起動が可能となる。原因はフロートのニードルの当たりが悪く、オーバーフロー気味となるためで、何度かニードル修正を行い状況は改善した。
本症状の根本原因は、ねじ式のミクスチャーが無く微調整ができないこと、過去に何度も掃除され真鍮のジェット類の穴が大きくなっていること。また、フロートのニードルが痛み、何度も研磨して短くなり、その分フロート室油面が高くなりガスが濃くなる、等である。
なお、本発動発電機の修復に際し、発電機部は低圧、高圧用ブラシの清掃に留めた。現在エンジンの回転数を若干低めに設定しており、出力電圧は、負荷時の低圧が約7.6V、無負荷の高圧は約610Vである。
地3号無線機補足
本無線装置は陸軍航空部隊の近距離用対空、対地通信機材であるが、実際は軽便な汎用機材として各部門で広義に使用された。本機は中型航空機による輸送を考慮して設計され、構成装置各部は小型軽量で、必要に応じ人力による運搬も可能であった。
地3号無線機の公称通信距離は電信が100kmで、運用形態は第四次制式機材に共通して、電信は電鍵の操作によるブレークイン方式で、電話は電鍵の操作による変則のプレストーク方式である。
地3号無線機諸元
用途: 対空・対地通信
通信距離:100km
送信周波数: 1,500〜6,675kHz
電波型式: 電信(A1)、変調電信(A2)、電話(A3)
送信機構成: A1出力40W、A2・A3出力8W、水晶又は主発振UZ-6D6、電力増幅UY-807A x2並列構成、第1格子変調UZ-6D6
送信機電源: 0.6馬力発動発電機、交流式電源
送信空中線装置: 逆L型、柱高6m、水平長20m、地線は地網2枚
受信周波数: 1,500〜8,900kHz
受信機構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UZ-78)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅1段(UZ-78)、オートダイン・再生式検波(UZ-78)、低周波増幅1段(UZ-78)
中間周波数: 450kHz
受信機電源: 直流回転式変圧器及び6V蓄電池
受信空中線装置: 直操時は送信空中線と共用、遠操時用は不明
-(265 KB)この度、神奈川県横須賀市在住の軍事資料収集家・岩崎政信殿より、東芝製送信管UX-860(直熱式四極管)をご寄贈いただきました。
本送信管は、陸軍航空部隊の「94式対空2号無線機」を構成する送信機の、緩衝増幅管および電力増幅管として使用されました。UX-860は現存数が少なく、今日では極めて貴重な真空管です。
岩崎殿のご高配とご協力に、心より感謝申し上げます。
陸軍「94式対空2号無線機」捕捉
94式対空2号無線機は、陸軍航空部隊の対空通信距離500kmの中距離通信機材として開発された。しかし、対空通信距離1,000kmの遠距離用機材94式対空1号無線機が僅か3機で不整備となったため、その代用として大戦終了まで、航空部隊の各部署で広義に使用された。
代用にあたり、対空通信距離1,000kmの問題は周波数帯の適正な選定により解決し、その運用に支障は無かった。
なお、野戦軍の軍通信隊も本機材より変調機を除き、遠距離用通信装置として使用した。
94式対空2号無線機装置諸元
用途: 対空通信
通信距離: 電信600km、電話300km
周波数: 送信950〜7,500kHz、受信140〜15,000kHz(8バンド)
電波型式: 電信(A1)、電話(A3)
送信機: A1出力約200W、水晶又は主発振UF-210B、緩衝増幅UX-860、電力増幅UX-860 x2並列使用
変調機: 音声増幅UF-210B、ハイシング変調UV-849、音声送信制御UF-12A x2、遠隔用音声増幅UF-12A x2
送信電源: 発動発電機、交流式発電装置
送信空中線装置: 逆L型、柱高12m、水平長25m、地線-25m裸線6条
受信機: 27号型2台、又は94式対空2号受信機二型2台
受信空中線装置: 逆L型、柱高10m、空中線長20m以下、地線-20m裸線4条
全重量: 840kg
運搬: 各駄馬1頭式輜重車四輌、自動貨車1輌
開設撤収: 兵6名で20〜30分
-(274 KB)今般、帝国陸軍が1934年(昭和9年)に制式化した、94式6号無線機を構成する電源電池収納鞄を入手した。
94式6号無線機は、対向通信用の二セットが一つの可搬用木箱に収容されており、電池鞄については従来一個が欠品であった。しかし、今回の入手により主要構成物品のほとんどが揃うこととなり、誠に幸いである。
これにより、木箱に収容される未収集の構成備品は、空中線装置を収納する布袋二枚のみとなった。
入手した電池鞄は未使用品であり、内部には電源用電池の収容筐も残っていた。また、未使用の送受話器が一組付属していたが、こちらは経年によりゴム引きの接線が劣化し、触れることができない状態である。
しかし、送受話器は紙テープで梱包されており、出荷時の状況を知る上で貴重な資料となるため、このままの状態で保存するつもりである。
陸軍「94式6号無線機」概要
94式6号無線機は、陸軍の第三次制式制定作業により兵器化された、各部隊・各兵科用の携帯式簡易無線電話機である。本機は軽便で、兵一〜二名による運用が可能であったことから、短期間のうちに陸軍各部門に広く浸透し、また一部は海軍陸戦隊にも供与された。
1934年当時、歩兵が移動しながら使用できる携帯式無線装置を導入していた国は、先進各国の中でもごく僅かであり、本機は極めて先駆的な通信機であった。
94式6号無線機は、双三極管30MCを一本使用した簡易無線機であるが、制式化以降、後継機が開発されることはなく、陸軍唯一の携帯式無線電話機として改修を重ねつつ太平洋戦争終結まで使用された。
このため、主装置である23号型通信機には、原型からF型までの初期一バンド型、普及型である三バンド方式の23号H型、および23号型など、各種の型式が存在する。
94式6号無線機(普及型・23号型通信機)緒元
用 途:歩兵用
通信距離:約2km
周波数:25〜45.5MHz(3バンド)
電波形式:変調電信(A2)、電話(A3)
装置構成:自励発振・超再生検波方式
構成管:UZ-30MC
送信構成:発振 UZ-30MC(1/2)、変調 UZ-30MC(1/2)、出力 0.5W(A2・A3)
受信構成:超再生検波 UZ-30MC(1/2)、低周波増幅/低周波発振 UZ-30MC(1/2)
電源装置:乾電池(平角4号×2個、B-18号×6個)、手回式発電機
空中線:L型、垂直部1.4m、対地線(カウンターポイズ)水平0.65m
運 搬:駄馬1頭に4機駄載、1通信機材は兵1名にて携行可
開設・撤収:兵1名にて1〜2分
整備数:6,665機(戦時中)
-(284 KB)先般「報告515資料館」館長の中村泰三氏が、スイス人の Ryo Dieterle 氏および自動車・内燃機関修復家の内和雅仁氏を伴い、当館(横浜旧軍無線通信資料館)に来訪された。
中村氏は旧軍航空機の研究家・修復家として知られ、当FBでもこれまでに何度か紹介したことがある。
Ryo Dieterle 氏は航空機や自動車の修復を趣味としており、これまでにすでに5台の車両を修復している。その中には1970年代のカローラも含まれており、驚かされた。
内和氏は自動車整備会社を経営する傍ら、希少車輌やエンジンの修復を行っている。とりわけ、氏はダグラス DC-3 の発動機 P&W R-1830(星型14気筒レシプロエンジン)を修復したことで知られている。
このエンジンは、かつて ANA が所蔵していた DC-3(JA5019)の左発動機であり、修復後は見事に稼働している。運転の様子は YouTube に多数UPされているが、その迫力は圧倒的である。
エンジン始動映像
[https://www.youtube.com/watch?v=Y-zuUEpMRuA](https://www.youtube.com/watch?v=Y-zuUEpMRuA)
ところで、内和氏は当館が所蔵する陸軍航空部隊の地三号無線機を構成する送信機用発動発電機式電源に強い関心を示され、驚いたことに修復を担当して頂けることとなった。この型のエンジンは、本田宗一郎が自転車の動力に転用したことで知られており、いわゆる「バタバタ」である。
併せ、小生は厚かましくも、同時代の米国海軍・海兵隊用移動無線機「TBX」を構成する送信機用発動発電機の修復もお願いしたところ、こちらも快諾をいただいた。
さて、当日は旧軍航空機の修復、DC-3発動機修復の経緯、さらにはスイスにおける航空機・自動車修復の現況など、多岐にわたる話題で盛り上がり、誠に楽しき一時を過ごさせていただいた。
また、期せずして当館所蔵の大戦期発動発電機2台の修復が実現する運びとなり、誠に驚き、感激した。これにより、ついに念願が叶い、近い将来、帝国陸軍の発動発電機が再び稼働する姿を目にすることができそうである。
地三号無線機補足
本機は、第四次制式制定作業により兵器化された陸軍航空部隊の近距離用対空・対地通信機材である。地三号無線機は中型航空機による輸送を考慮して設計され、構成装置は小型・軽量であり、必要に応じて人力による運搬も可能であった。
通信距離は電信で約100km。運用形態は第四次制式機材に共通し、電信は電鍵操作によるブレークイン方式、電話は電鍵操作による変則プレストーク方式であった。
地三号無線機 諸元
用途:対空・対地通信
通信距離:100km
送信周波数:1,500〜6,675kHz
電波型式:電信(A1)、変調電信(A2)、電話(A3)
送信機構成:A1出力40W、A2・A3出力8W、水晶または主発振 UZ-6D6、電力増幅 UY-807A×2(並列構成)、第1格子変調 UZ-6D6
送信機電源:0.6馬力発動発電機
送信空中線装置:逆L型(柱高6m、水平長20m)、地線は地網2枚
受信周波数:1,500〜8,900kHz
受信機構成:スーパーヘテロダイン方式
高周波増幅1段(UZ-78)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅1段(UZ-78)、オートダイン・再生式検波(UZ-78)、低周波増幅1段(UZ-78)
中間周波数:450kHz
受信機電源:直流回転式変圧器および6V蓄電池
受信空中線装置:直接操作時は送信空中線と共用、遠操作時用は不明
TBX補足
本機は1930年代後半に開発された米国海軍・海兵隊用の中距離通信機材である。TBXは太平洋地域の上陸作戦で広く使用され、ニュース映像や映画にも頻繁に登場するため、よく知られた無線機材である。
TBX-3型 諸元
用途:海兵隊用
通信距離:電信50km、電話25km
周波数:送信 2,000〜4,525kHz、受信 2,000〜8,000kHz
電波型式:電信(A1)、電話(A3)
送信出力:電信9W、電話3W
送信部構成:発振・直接輻射(837)、第三格子変調
受信部構成:スーパーヘテロダイン方式(高周波増幅なし)
周波数変換(1C6)、中間周波増幅1段(34)、検波(34)、BFO(CRC-38034)、低周波増幅1段(34)
中間周波数:1,515kHz
電源装置:受信部乾電池、送信部手回し発電機または発動発電機
空中線装置:送受信兼用、垂直ホイップ型または単線展開型
地線装置:カウンターポイズ
通信機本体重量:12.5kg
運搬:携行、駄馬編成、車載