先日、エスミ電波研究所製の「RSA 1B」なるトランシーバーを「ヤフオク!」で入手した。この形のエスミ製品は1960年代初頭のカタログで承知をしていたが、実物を見るのは初めてで、誠に驚愕した。因みに、運用周波数は40.68MHzの市民バンドである。
事務局員はエスミ製品に強い思い入れがあるが、しかし、既にこの手の機材の収集は行って居らず、現在手元にエスミ製品はない。とは言え、その昔に入手を切望した製品を目の当たりにして、通り過ぎるわけにもいかず、結局落札する事になってしまった。
ところで、この時期のエスミ製品の殆どは、受信が三極管5676による超再生検波、送信は双三極管3A5(1/2)による水晶発振、3A5(1/2)の電力増幅方式で、低周波増幅兼変調部はトランジスタによるP.P.構成であった。
この回路構成はエスミ製品の標準型であり、周波数や収容ケースを変更する事により、各種の製品を作り出していた。このため、今般入手した「RSA 1B」も同一の構成と推察したが、内部を確認して誠にたまげた。
何と、本機の受信部はサブミニチュア管を使用した高周波増幅1段、周波数変換、中間周波増幅1段のスーパーヘテロダイン方式で、局部発振は水晶制御方式であり、これは当時のエスミ製品としては最高級品である。
一方、送信部はサブミニチュア三極管5676の発振、5676による電力増幅方式で、低周波部は汎用のトランジスタ構成であった。ところが、その低周波部の初段の石にはNECのオーバル型トランジスタST-300が使われており、誠に時代をよく表し、思わず笑ってしまった。
エスミ電波研究所と事務局員
エスミは1950年代の後半より、各種の携帯式トランシーバーを発売した先駆的なメーカーであった。当時のエスミ製品は 一般のアマチュア無線家には購入が難しい高額品で、周囲の誰もが入手を切望していたが、所蔵する者は居なかった。事務局員が最初に手に入れたエスミ製品は27MHz帯のRT-1で、高校3年生の折、同学年の金持ちの息子より、二台対をただ同然で譲り受けた。
ところが、1968年にトリオがTR-1000を、また、他社が同類の製品を発売し始めると、エスミはマーケットより忽然と消えてしまった。
後年になり、事務局員は一時代を築いたエスミ電波研究所の創業者、江角べん蔵氏と、事業の顛末を知りたいと考えるようになった。しかし、残念ながら、 今日もなお、殆どのことは分かっていない。これを機に、再度エスミ電波研究所に関わる調査を行いたいと考えている。
先の5月29日、当館(横浜旧軍無線通信資料館)が日頃お世話になっていた東京大学名誉教授で、物理学者として文化功労者であられた霜田光一先生がご逝去されました。
先生のご冥福を心からお祈り申し上げると共に、生前に当館が賜ったご協力に、心から感謝申し上げます。
霜田光一先生とマイクロ波用鉱石検波器
戦中東大理学部大学院生であった霜田光一先生は、海軍技術研究所電波研究部の菊池正士技師門下として、昭和19年(1944年)の初めにマイクロ波用鉱石検波器を開発されました。
本鉱石検波器が海軍電波兵器の開発に果たした役割は非常に大きく、電波研究部はこの検波器を使用してセンチ波用電波探知機を開発し、また、不振を極めていた22号系マイクロ波レーダーの受信機は漸くスーパーヘテロダイン化が達成され、兵器として実用の域に達しました。
霜田光一先生寄稿論文について
当館は霜田先生より、現在編纂作業を進めている仮称「横浜旧軍無線通信資料館」に、以下の2論文をご寄稿頂いております。
1.「電波探知機・電波探信儀用鉱石検波器の研究」
2.「戦時中の米軍レーダーの調査」
「電波探知機・電波探信儀用鉱石検波器の研究」は、先生が如何にして其れ迄の常識を覆し、センチ波用鉱石検波器を開発されたかの記録です。また、「戦時中の米軍レーダーの調査」は、1944年(昭和19年)11月21日に有明海に墜落したB-29より回収されたセンチ波レーダー、及び暗礁に乗り上げ放棄された米国潜水艦Darterより回収された水上警戒用レーダーに関わる調査記録で、当時の米国レーダーを知る誠に貴重な一次資料です。
現在これら2論文につきましては、仮称「横浜旧軍無線通信資料館」の編纂作業が遅れている為、出版に先行して当館のHPで公開を行っております。
http://www.yokohamaradiomuseum.com/shimodawebsite/shimoda.html
霜田光一先生履歴
1920年生まれ。理学博士。1943年東京帝国大学理学部物理学科卒業。1948年東京大学理学部助教授。1959年同教授、1960年理化学研究所主任研究員兼任。1981年東京大学名誉教授、慶応義塾大学理工学部教授(1986年迄)。
元レーザー学会会長、元日本物理教育学会会長。1974年東レ科学技術賞、1980年日本学士院賞、1990年勲二等瑞宝章、2008年文化功労者。研究分野はレーザー分光、量子エレクトロニクス、物理教育。
先般「ヤフオク!」に陸軍の「96式飛3号無線機」を構成する送信機のジャンクが出品された。当館(横浜旧軍無線通信資料館)は之までに本機材を確認した事がなく、参考資料として入手を試みたが、残念ながら落札は叶わなかった。
出品物は改造により内部は殆ど原状を留めておらず、また、装備真空管も異なっていたが、稀少な機材で、その資料価値は非常に高いと考えられる。特に当館が知りたかったのは構成真空管の名称で、ソケットの横には管名のプレートが取付られているはずである。
さて、「96式飛3号無線機」は陸軍の第三次制式制定作業(昭和9年/1934より暫時実施)により開発された単座戦闘機用の無線電話機で、その用途は僚機との電話通信である。しかし、間もなくして第四次制式(昭和14年/1939より暫時実施)機材である99式飛3号無線機が導入されたため、その生産台数は極わずかに留まったと考えられる。
96式飛3号無線機については資料が少なく、当館はその構成回路すら完全には把握をしておらず、また、構成真空管も確定が出来ていない。とは云え、所蔵資料からの推察により、送信機は水晶発振・直接輻射方式で、変調は陽極変調方式(ハイシング変調と推測)であり、構成真空管は2本である。
また、受信機は高周波増幅1段、周波数変換、中間周波増幅1段、検波、低周波増幅、AVC機能付のスーパーヘテロダイン方式で、構成真空管4本である。この管数で前記の機能を充足させるには、陸軍が第四次制式機材で多用するUt-6F7(三極・五極)等の複合管が必要となる。
96式飛3号無線機に関わる若干の推測
当館は、外部構造は全く異なるが、96式飛3号は第四次制式制定機材である99式飛3号無線機の原型と、その回路構成は相似しているのでは、と考えている。
99式飛3号を構成する送信機は水晶発振・直接輻射方式で、変調は陽極変調方式であり、構成真空管はUY-807A二本である。また、受信機は高周波増幅1段、中間周波増幅1段、低周波増幅2段、AVC機能付のスーパーヘテロダイン方式で、構成真空管は三極・五極複合メタル管MC-804A四本である。
幸いにも当館は、96式飛3号の送信機及び受信機の予備真空管筐を所蔵している。送信管筐は緩衝材の構造から、頂部にキャップの付いた真空管を収容すると考えられ、この球は99式飛3号・送信機の構成管UY-807Aを想起させる。
また、受信管筐の収容管数は4本と非常に少なく、何れもが同一の収容形状であることから、構成管には複合管一種の使用が推察される。96式飛3号が導入された当時、99式飛3号・受信機が使用した三極・五極複合管MC-804Aは未だ開発されては居らず、このため、Ut-6F7が使用されたのでは、と考えられる。
94式飛3号無線機
第三次制式制定作業に於いて、96式飛3号無線機とは構造が全く異なる機材が、15号無線電信機(94式飛3号無線機)として研究審査が行われていた。本機の構成は送信機が主(水晶)発振・電力増幅方式で、変調は音声増幅・陽極変調方式であり、受信機は高周波増幅1段、中間周波増幅1段、オートダイン検波、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式であった。
94式飛3号については、開発元である陸軍通信学校研究部が1936年(昭和11年)12月に仮制式化を上申し、陸軍航空通信学校の教本「航空通信学仮教程」にはその構成図が掲載されている。しかし、以降本機の実戦配備や整備に関わる記録は無く、また実機も確認された事が無い。
このため、94式飛3号無線機は仮制式化の時期に、より小型で実用的な96式飛3号が開発された事により、結局生産に移ること無く非整備になったと考えられる。この経緯は中型航空機用の94式飛2号無線機に類似し、本機の場合も制式化後間もなくして、より小型で高性能な96式飛2号無線機が導入されている。
第三次の制式化に向け研究が進められたこの時期は、新技術や新型真空管の導入が急速に進んだ。このため、研究が終了寸前の機材であっても、その構成が変更された物が多くあった。94式飛2号や飛3号はその典型であった考えられる。
96式飛3号無線機諸元(2型)
用途: 戦闘機相互間電話通信
通信距離: 10km
周波数: 送信4,600-5,000KHz、受信4,600-5,000KHz
電波形式: 電話(A3)
送信機: 出力不明、水晶発振直接輻射方式、陽極変調方式、構成真空管2本
送話器: 防音式又は咽喉式
受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段、周波数変換、中間周波1段、検波、低周波増幅、AVC機能付、構成真空管4本
電源(送受兼用): 入力24V、直流回転式変圧器
空中線装置: 固定式7m(逆L型)、地線は機体接地
この度、武蔵村山市在住のアマチュア無線家JA1GJY、石川清治殿より、下記の品々を御寄贈頂きました。
石川殿には2001年に陸軍の地3号無線機・送信機及び、94式3号丙無線機・送信機を御寄贈頂いた経緯があります。石川殿の変わらぬご協力、御高配に心より感謝申し上げます。
御寄贈品
94式3号丙無線機・受信機同調線輪セット
車輌無線機甲・受信機同調線輪
94式5号無線機・送信機バリオメータ
飛行訓練用無線機・受信機同調線輪
なお、石川殿が地3号送信機及び94式3号丙送信機を御寄贈下さった2001年当時、当館は未だNet上にHPを立ち上げて居らず、両機材の御寄贈に関わる掲示が出来ていませんでした。このため、今般の御寄贈周知に際し、当時の御寄贈品について、併せ写真の掲示を行いました。
当館の技術調査員である安齊君が修復を進めている「94式3号型特殊受信機代用甲(8号型受信機)」の作業がほぼ終了し、快調に動作を始めた。しかし、ペーパーコンデンサーに特殊寸法の物が使われており、之はケースを作る必要がある。このため、修復が完全に完了するには、今暫く時間が掛かりそうである。
「94式3号型特殊受信機代用甲」(短波用)は原型である野戦用の「94式3号型特殊受信機甲(8号型受信機)」(短波用)の交流式で、構成管は線條電圧が6.3Vの傍熱管である。しかし、構成管を除き、両受信機の構造、回路構成に大きな違いは無い。
「94式3号型特殊受信機」の開発
陸軍に於ける特殊受信機とは、自軍通信部隊の鑑査及び、敵の無線通信傍受を目的とした専用受信装置である。特に敵通信の傍受は、通信系の把握、内容の解読により、敵部隊の配備及び編成、作戦動向等を察知出来る可能性があるため非常重要で、多くの野戦軍通信隊には専用の通信傍受部門が設置された。
敵方の通信傍受は短波帯が普及し始めた昭和初期よりその業務を開始したが、当初傍受は後方の固定局で行われ、受信機は民生品を流用していた。しかし、大陸での戦線が拡大し野戦軍司令部の移動が活発化すると、前線での使用が可能な移動用受信機が必要となった。
このため、第三次制式制定作業に際し、本目的に沿った専用の「特殊受信機」が開発され、1938年(昭和13年)に装置名「94式3号型特殊受信機」として兵器化された。
この特殊受信装置は長波用受信機(乙)1台、短波用受信機(甲)1台及び空中線材料等により構成され、運用周波数は長波用が12-2,000kHz、短波用が2,000-20,000kHzで、電源は共に乾電池方式である。
また、94式3号型特殊受信機の類型として、交流・直流電源方式の「94式3号型特殊受信機代用甲・乙」が若干数整備された。「代用」の構成・構造は94式3号型特殊受信機に相似するが、構成真空管は線条電圧が6.3Vの傍熱管である。
なお、陸軍では固定局に設置され高速度通信、秘話電話、画像通信、テレタイプ通信等の特殊通信の傍受を目的とした上級受信機も特殊受信機に分類され、また、方向探知機材もこの範疇に含まれている。このため、装置名だけでは用途が判然とせず苦慮する。
「94式3号型特殊受信機甲(8号型)」短波用諸元
受信周波数: 2,000-20,000kHz(ターレット切替式)
構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UF-134)、第1検波(UZ-135)、中間周波増幅2段(UF-134 x2)、第2検波(オートダイン検波・UF-109A)、低周波増幅1段(UF-109A)、低周波増幅2段(UY-133A)、AGC機能無し
中間周波数: 470kHz
帯域濾波器: 水晶片ブリッジ平衡型
受信感度(電話): 1.2μV/10db(バンド3)
空中線装置: 逆L型、20m被覆線、所在地物に懸架
地線: 20m裸線6条
電源: 乾電池135V・67.5V、1.5V、-3V・-4.5V(バイアス用)
「94式3号型特殊型受信機代用甲(8号型第705号)」短波用諸元
受信周波数: 2,000-20,000kHz(ターレット切替式)
構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UZ-78)、第1検波(Ut-6A7)、中間周波増幅2段(UZ-78)、第2検波(オートダイン検波・UZ-78)、低周波増幅1段(UZ-78)、低周波増幅2段(UZ-78)、AGC機能無し
中間周波数: 470KHz
帯域濾波器: 水晶片ブリッジ平衡型
交流式電源: 入力100V又は200V、50/60Hz、整流管KX-80、出力200V、6V、-3V・-4.5V
直流式電源: 200V蓄電池及び8V蓄電池、バイアス用C4号乾電池(-3V・-4.5V)
空中線装置: 逆L型、20m被覆線、所在地物に懸架
地線: 20m裸線6条
先般、沖縄の旧海軍壕司令部壕事業所より、当時壕内で使用された通信機器についての問い合わせがあった。
https://kaigungou.ocvb.or.jp
海軍司令部壕とは、沖縄の重要な軍事拠点であった小禄飛行場(現那覇空港)を守るため、近くの丘に突貫で建設された海軍陸戦隊の地下壕である。工事は1944(昭和19年)年8月10日に始まり、同年12月に完成した。
壕の全長は約450mで、内部には司令官室、幕僚室、作戦室、通信室、暗号室、下士官室、信号室他が設置されていた。工事は海軍第226設営隊(山根部隊)の約3,000名があたり、殆どの掘削が、つるはし等を使用した手作業により行われた。
沖縄戦末期、海軍沖縄方面根拠地隊は海軍司令部壕付近に孤立して戦闘を継続し、1945年(昭和20年)6月11日に玉砕した。この時期、2,000名以上の将兵がこの壕を拠点として戦ったが、玉砕を前に、大田實司令官は海軍次官に宛て、「沖縄県民斯ク戦エリ」の電報を発した。
さて、海軍司令部壕内で使用された通信装置であるが、資料不足のため詳細は不明であるが、客観的に考え、以下の事柄を取り纏め、問い合わせ元に返信した。
陸上用通信装置
通常海軍の出先陸上部隊の通信施設は、送信所と受信所に分け設置され、送信所には複数の送信機、電源装置及び柱上に展開した空中線が、また、受信所には複数の受信機、電源装置及び柱上に展開した空中線が装置された。
送信所の送信機は艦艇装備用を若干改修した物で、電源には交流式の発動発電機を使用した。また、戦中海軍の艦艇、陸上受信所で使用された受信機は92式特受信機で、本機は海軍の各部で広義に使用された。受信機の電源は蓄電池及び充電器、又は交流式電源により供給された。
これらより、司令部壕建設当初は、通信区画に艦艇で使用された95式短4号送信機等の大型送信機と発動発電機、及び複数台の92式特受信機が設置された可能性がある。しかし、本設備はかなり大掛かりで、特に壕内で、送信機用の大型発動発電機を稼働させることは、排気の問題があり、相当に困難である。
通信対向
米軍上陸以前であれば、空中線の展開も可能で、その対向は連合艦隊司令部であったと考えられる。しかし、地上戦が勃発し、司令部壕が多数の将兵で溢れると、もはや壕内で大型発動発電機を稼働させることは困難である。
また、無線通信に最も重要な空中線は、壕の入り口より周囲の事物を利用し展開する以外に方法は無く、その通達距離は大幅に短縮したはずである。このため、米軍上陸後、通信対向が引き続き本土の艦隊司令部であったとは考えにくい。
通信は近郊の奄美大島や、九州の海軍施設と小電力で行い、中継により艦隊司令部との連絡を確保したものと考えられる。事実、大田實司令官が自決前に海軍次官に宛てた電報、「沖縄県民斯ク戦エリ」は九州の鹿屋で受電されたと伝わっている。
実務通信装置
中継通信を前提にすると、設備は小型の中距離用通信機材で十分である。考えられる機材は、海軍の代表的な可搬式中距離通信装置であるTM式短移動無線電信機である。本装置は送信機、電源、発動発電機及び、蓄電池や乾電池で動作する小型の受信機により構成さ、海軍の各部署で使用された。
上記により、当館は、海軍壕内で実用された無線装置は、送信機はTM式短移動無線電信機(送信機)で、受信機は比較的電源の供給が容易な、数台の92式特受信機であった考えている。また、送信機の発電装置は壕入り口付近に設置し、ホースにより外部に排気をしたと考えられる。
ところで、同じような状況が、米軍が沖縄に上陸する一ヶ月ほど前に、硫黄島でも起こっていた。この時駐屯した海軍部隊も海軍司令部壕内に通信所を設置したが、通信装置にはTM式短移動無線電信機を使用したと考えられ、現在も同壕内には、本送信機が残されている。
このため、硫黄島の場合も、通信は艦隊司令部直接ではなく、父島に駐屯した海軍部隊の中継により行ったものと考えられる。因みに、硫黄島に駐屯した陸軍部隊も、残された電報から、父島を中継して陸軍本部との通信を行っていたと考えられる。
95式短4号送信機原型諸元
用途: 全艦艇及び陸上用
送信周波数: 3,500-19,000kHz、
電波型式: 電信(A1)
送信出力: 電信500W
送信機構成: 水晶又は主発振UX-202A(三極管)、第一増幅(緩衝)UV-865(四極管)、第二増幅・逓倍UV-814(四極管)、第三増幅D-860(四極管)、電力増幅UV-861(四極管)
電源: 入力220V/50-60Hz三相交流、出力直流3,200V・1,500V・500V・-300V、線條電源16V
空中線装置: 艦艇設置固定型・陸上用同調型単条空中線
給電方式: 電圧饋電(1/2波長)、電流饋電(1/4波長)
TM式短移動無線電信機改2型送信機諸元
用途: 海軍陸戦隊遠距離通信用
送信周波数: 1,750-18,000kHz
電波形式: 電信(A1)
送信入力: 300W
回路構成: 主発振UX-202、励振UV-814、電力増幅UV-812
電源装置: 2馬力発動交流発電機、電圧調整機、整流機
空中線装置: 逆L型仮設空中線又はロングワイヤー方式、地線は平衡地線方式
現在当館が進めている編纂作業に関連し、今日日話題のChatGPTを有効に活用できないかと、試行を繰り返している。
このツールは対話形式で、「何々について教えてください」、「添削をお願いします」、「英語に翻訳をしてください」等々、依頼事を入力すると即座に回答を得ることが出来、また、書き込みは日本語でよい。
ChatGPTは「良く嘘をつく」との評判通り、回答文は旨く纏められてはいるが、その内容は相当に酷い物が多かった。「講釈師見てきたような嘘をつき」との川柳があるが、ChatGPTは正にその類いで、間違った情報を誠見事に纏め上げ、回答してくれる。
このため、現在の状況では、自身が持つ知識の範疇外の事柄については、怖くて、到底その回答を利用する事は出来ない、との結論を得た。
特に事務局員が質問した内容は、大戦中の無線機材、レーダーに代表される電波兵器等、情報量が他のジャンルに比べ不十分な物が多く、このため、その回答は不正確、不都合なものになったと考えられる。
しかし、将来、質問に対する返答作成のソースが、その質問に該当する学術論文類や、行政が公開した資料に限定される等の処置が施されれば、ChatGPTの信頼性、利用価値は大いに高まるのでは、とも考えられた。
之までの運用から、当館が利用できそうなのは文章の添削と、日本語より英語への翻訳機能であろう。内容は旧軍機材に関わる事柄であるが、翻訳結果は非常に良く、Google翻訳と比較してその能力は優れている様に感じた。
参考資料として、以下にレーダーに関わる質問例とその回答を掲示した。
☆帝国海軍の22号レーダーについて教えてください。(回答に22号の特徴を示す内容が無く、之を言っておけば文書が纏まる、の様な回答である)
帝国海軍22号レーダーは第二次世界大戦中の日本のレーダーです。1942年に開発され、船舶のレーダー探知距離を大幅に拡大することができました。
このレーダーは、高周波数帯域を使用し、船舶の航行状況を正確に把握することができました。また、空中目標の探知も可能で、敵機の発見に役立ちました。
22号レーダーは、当時の日本海軍にとって重要なレーダー技術の一つであり、太平洋戦争中の戦闘において重要な役割を果たしました。しかし、戦争中の日本の物資不足や技術的な限界により、22号レーダーの製造数は限られていました。
☆RAFのH2Sレーダーについて教えてください。(このレーダーは、水素と硫黄の結合から発生するマイクロ波を使用してや、発明者がジョン・ライル・ウィルキンス等回答内容に不都合なことが多い)
RAFのH2Sレーダーは、第二次世界大戦中に英国の空軍で使用されたレーダーです。このレーダーは、地形追随能力を持ち、飛行中の爆撃機から地上の目標を検出するために使用されました。H2Sは、「Hydrogen, Sulphur(水素、硫黄)」の頭字語であり、このレーダーは、水素と硫黄の結合から発生するマイクロ波を使用して、地上の物体を探知しました。
このレーダーは、英国の科学者であるジョン・ライル・ウィルキンスによって開発され、1943年に実用化されました。H2Sは、当時の空軍にとって、重要な兵器であり、特に夜間の爆撃作戦において、目標の検出と攻撃の正確性を大幅に向上させました。・・・・・・・
この度、広島在住の無線技術研究家、藤田勝三殿より、リーダー電子の3215型標準信号発生器を御寄贈頂きました。
藤田殿の御高配、御協力に心より感謝申し上げます。
現在当館は旧軍受信機の性能測定試験を計画しており、その準備を進めています。しかし、所蔵する標準信号発生器の動作が不良で、このため、FBで「求む、標準信号発生器」の掲示を行った経緯があります。藤田殿の御寄贈により、漸く測定作業が進められる事となり、誠に幸いです。
改めて、藤田殿の御高配に心より感謝申し上げます。
先週、標記の真空管3本を「ヤフオク!」で入手した。当館(横浜旧軍無線通信資料館)は本送信管を複数本所蔵しており、特段入手の必要性も無かったが、然りとて無視をするのも偲びがたく、冷やかし程を応札した所、僅かな金額で事務局員に落ちた。
帝国陸海軍のレーダーに関わる送信管は希少性もあり、その昔はとんでもない価格で取引が行われていた。このため、今般の落札価格には誠に驚いた。しかし、入手したT-311の何れもが使用品で、ゲッターも白濁しており、このため、程度の不良が災いし、盛り上がりに欠けたものと考えられる。
ところで、T-311は東芝が大戦中に開発した超短波用の自然空冷式三極管で、海軍の可搬式対空警戒用レーダー「1号電波探信儀3型(13号電探)」や、陸軍の機上用警戒レーダー「タキ1号」の発振管として使用された。
特に13号電探は可搬式のため使い勝手が良く、また、高性能であったため、T-311も大量に生産され、戦後放出された在庫品は、高周波ミシンの発振管として大いに役立ち、産業の復興に貢献した。おそらく、入手管も状態から、これら工業用高周波ミシンに関係した物であったと推察される。
超短波発振管T-311諸元(資料出典 電子管の歴史)
用途: 極超短波発振管
製造元: 東芝
線條電圧/電流: 12V/6A
Gm: 3000μ℧
増幅率: 16
最大陽極電圧: 10000V
最高周波数: 200MHz
電極静電容量: Cpg(pF)
海軍13号電探補足
本レーダーは大戦中期に導入された陸上部隊用の、可搬式対空警戒用レーダーである。13号電探は前線への配備を考慮した小型、軽量機材で、設置、取扱が容易な為、陸上使用と併せ、装備の一部を変更し、航空母艦より潜水艦まで、殆ど総ての海軍艦艇にも装備された。このため、13号電探の生産台数は2,000台を越え、海軍で最も成功した対空警戒用レーダーとなった。
13号電探緒元
用途: 対空警戒
設置場所: 陸上・艦艇・潜水艦
有効距離: 編隊100km以上、単機50km以上
周波数: 150MHz帯
繰返周波数: 500Hz
パルス幅: 10μs
送信尖頭出力: 10kW
空中線: 半波長ダイポール水平2列4段、反射器付、送受兼用
送信機: 発振管T-311 x2(P.P.)
変調方式: パルス変調、変調管T-307
受信機: スーパーヘテロダイン方式(11球)、高周波2段(UN-954 x2)、混合(UN-954)、局発(UN-955)、中間周波5段(RH-2 x5)、検波(RH-2)、低周波増幅1段(RH-2)
中間周波数: 14.5MHz
帯域幅: ±100kHz
総合利得は120db以上
信号表示: Aスコープ方式
測定方法: 最大感度方式
測距精度:2-3km
測角精度: 10゜
電源: 単相110/220V交流電源
重量: 110kg
製造: 東芝・安立、1,000台
陸軍機上用探索レーダー「タキ1号」補足
タキ1号は陸軍が1943年(昭和18年)に開発した航空機搭載用探索レーダーの1号機で、タキ3号の開発が最終段階で中止となったため、陸軍航空隊唯一の実用索敵レーダーとして終戦まで使用された。
タキ1号2型、3型諸元
用途: 早期警戒
周波数: 200MHz
繰返周波数: 1,000Hz
パルス幅: 5μs
尖頭出力: 10kW
2型空中線装置: 機首5素子八木1基、胴体両側面半波長ダイポール水平2列2段、送受兼用
3型空中線装置: 機首5素子八木1基、両翼4素子八木各1基、送受兼用
送信機: 発振管T-311( P.P.)
変調方式: パルス変調、変調管UV-211
受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅3段(UN-954 x3)、混合(UN-954)、局部発振(UN-955)、中間周波増幅4段(RH-4 x4)、検波(RH-4)、低周波増幅(RH-4)
中間周波数: 9.5MHz
帯域幅: 500kHz
利得: 100db
測定方法: 最大感度方式
信号表示: Aスコープ方式
掃引幅: 0-100km
測定距離: 潜水艦15km、大型艦50km、艦隊100km(高度1,500m)
測距精度: ±2km
測角精度: ±5°
電源: 直流交流変換器(入力直流24V、出力3相100V、750VA)
総重量: 150kg
製造: 日本無線
先般、米国の収集家より、米国陸軍の鹵獲兵器調査機関であるEEIS(Enemy Equipment Intelligence Service) が作成した、帝国陸海軍無線機材に関わる報告書の提供を受け、この中に陸軍の「94式2号丁無線機」が含まれていた。
本機は機械化部隊の指揮官車用として開発されたが、資料が少なく、編纂作業を後回しにしていた経緯があり、誠に有りがたい資料提供であった。
日本無線史第9巻・陸軍編によると、「94式2号丁無線機」は試作機を含め6機が製造されたが、その後不整備(調達中止)になったとの事である。しかし、本機はビルマで英軍に鹵獲されている事等から、実際には相当数が整備され、配備されたと推察される。
ところで、「94式2号丁無線機」は指揮官車用のため、野戦機材には珍しく、電話主体で秘話装置を装備している。帝国陸海軍の秘話装置に関わる資料は少なく、このため、参考資料として、本無線機の秘話装置及び、所蔵する秘話式「特4号電話機」について、その概要及び資料を掲示した。
94式2号丁無線機秘話装置
本装置は受信機の上部に設置された簡単な単側波帯反転式で、回路はまさにSSBジェネレーターそのものである(掲示回路図参照)。搬送波発振、増幅は三極管UY-76で、平衡変調回路は亜酸化銅整流器4本で構成されている。
送話器よりの音声信号は約4,500KHzの搬送波により平衡変調され、発生する両側波帯の内、2,000-4,000KHzの下側波帯をローパスフィルターで取り出し、双三極管UZ-79で二段増幅を行う。この反転した下側波帯を秘話音声として使用し、復調は同一回路により行う。
対向と搬送周波数を一致させるため、秘話装置の前面には、発振回路を構成する手動可変式蓄電器が装置されている。
なお、本機材で秘話機能を使用する場合は、電話モードに於いて、秘話装置の選択スイッチを「通常」より「特殊」に転換する。
94式2号丁無線機諸元
用途: 乗用自動車装備(主用途電話通信)、秘話装置付
通信距離: 60km
送信機
運用周波数: 900-5,500kHz
電波形式: 電信(A1)、電話(A3)
出力: 25W(電信)、12W(電話)
装置構成: 水晶又は主発振UY-510B、電力増幅UV-203A、音声増幅UY-510B、陽極変調UX-250二本(P.P.構成)
空中線装置(送受兼用): 車体装備逆L型、線長5m
受信機
電波形式: 電信(A1)、電話(A3)
受信周波数: 140-15,000kHz
装置構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UZ-78)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅1段(UZ-78)、中間周波増幅2段(UZ-78)、検波(Ut-6B7二極部)、低周波増幅(Ut-6B7五極部) 、BFO(UY-37)
電源: 直流回転式変圧器(入力12V、出力250V)送受信共用
秘話装置: 単側波帯反転式
電源装置: 直流回転式変圧器送信機高圧用(入力12V、出力500V)、同バイアス用(出力-200V)、同受信機用(出力250V)
1次電源: 12V70AH蓄電池3個、500W充電機
装備自動車: 93式6輪乗用車
陸軍「特4号電話機」
本電話機は軍上層部用で、秘話式であるが、磁石式、共電式交換機及び、ダイアルを付加し自動交換機にも接続が可能である。
特4号電話機は送話器よりの音声信号を、2,200kHzの低域濾波器を通し第1信号とする。また、同一信号を4,600kHzで平衡変調を行い、発生する下側波帯を2,400-4,250kHzの帯域濾波器で取り出し、この反転変調信号を第2信号とする。
発生させた2信号は、モーター駆動のスイッチにより約100msecで切替え、増幅の後秘話音声信号とする。受信は同一方法により秘話信号を再生するが、電話は双方向同時通話のため、秘話用の側波帯発生回路は94式2号丁無線機の秘話装置とは異なり、上下2系統となっている。
掲示資料補足
写真@は94式2号丁無線機を構成する送信機と受信機で、受信機の上部に秘話装置が装着されている。
写真Aは秘話装置の内部である。
資料Bは秘話装置の回路構成図である。
写真Cは秘話式「特4号電話機」である。
先般、「ヴィンテージ・昭和・レトロ・受信機・整流器一型・受信機翼板電流用」なる電源を、「ヤフオク!」で入手した。冷やかしで応札したところ、何と僅か3,900円で事務局員に落ち、誠に驚いた。
「整流器一型・受信機翼板(陽極)電源用」は相当残存機が有るのか、時折「ヤフオク!」で見かける。このため、必要とは考えていたが、食指が動かず、今日まで入手することは無かった。しかし、期せずして収集が完了し、誠に幸いである。
本電源は海軍の代表的な艦艇用受信機「92式特受信機」を構成する交流式電源で、陸上局等で使用する。入力は90-110V/50-60Hzで、出力は直流250Vであり、整流は双二極管5Z3による両波整流である。
とは言え、92式特受信機を本電源で運用する場合は、併せ、線條用電源として、別途直流又は交流6Vを用意する必要がある。
「ヤフオク!」に掲載された写真の当該電源は酷い汚れ様で、このため、入手希望者は殆ど居なかったと考えられる。しかし、実物は清掃をしてみれば、内部に錆は残るが、欠品も無い良品であった。また、製造が昭和16年(1941年)の事もあり、構成部品の品質も良い。
92式特受信機補足
1926年に元号が大正より昭和に改まり暫くすると、艦隊通信は従来の長波帯に代え、小電力で遠達が可能な短波帯での運用が盛んになった。しかし、この時期艦隊が装備した主要受信機は、何れもが高周波増幅部に中和を施したニュートロダイン方式の、ストレート式であった。
一方、潜水艦隊に於いても短波帯への移行が進んでいたが、水上艦艇と比べ驚くほど狭小な電信室に、長波、短波用送受信機を各機複数台設置するのには限界があり、長波と短波帯が兼用可能な特別構造の送受信機の開発が強く要請された。
潜水艦隊の要望に応え、1931年(昭和6年)にYT式特3号送信機(長波1kW・短波500W)及び5号送信機(長波100W・短波100W)が明昭電機(後東洋通信機)により開発され、その翌年に92式特受信機が導入された。「特」とは長波、短波帯を兼用する特別型を表している。
この92式特受信機は、ストレート式長波受信部及び短波帯用コンバーター部により構成され、長波部は高周波増幅2段、再生(オートダイン)検波、低周波増幅1段構成で、コンバーター部を付加すると、高周波増幅2段、周波数変換、中間周波増幅2段、再生(オートダイン)検波、低周波増幅1段のスーパーヘテロダイン式受信機として動作する。
本機の同調コイルは差替式で、長中波帯20-1,500kHzを5バンドで、短波帯1,300-20,000kHzを5バンドで受信する。短波帯受信時、長波部は中間周波増幅部として動作するため、運用周波数帯に応じ、指定中間周波数に設定する。また、同調操作は短波帯用同調器により行う。
92式特受信機は導入以来、動作の安定を確保するのに時間を要し、幾多の改修が施されたが、1935年(昭和10年)の後半になり漸く完成の域に近づいた。
本受信機は潜水艦隊への配備を目的として開発されたが、改良型(3型以降)は使い勝手が良く、また、小型である事から海軍各部で重用され、艦隊の主要受信機として大戦終了まで使用された。
92式特受信機改4型諸元
用途: 艦艇用
長波受信周波数: 20-1,500kHz(コイル差替式5バンド)
短波受信周波数: 1,300-20,000KHz(コイル差替式5バンド)
長波帯受信構成: ストレート方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、再生(オートダイン)検波(UZ-77)、低周波増幅1段(UY-238A)
短波帯受信構成: 長波部に周波数変換部付加のスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅1段
電源: 直流100/220V、直流/交流6V
空中線装置: 艦艇装備固定式
先般大量の無線機器を当館(横浜旧軍無線通信資料館)の技術調査員である安齊穗積君宅に運搬したが、この折り、修復目的で陸軍航空部隊の機上用無線機「99式飛1号無線機(ム51)3型」受信機、「99式飛3号無線機」受信機及び、陸軍「車輌無線機甲」を構成する受信機を併せ持ち込んだ。
99式飛1号は陸軍航空部隊の大型機用機材で、飛3号は単座戦闘機用無線機である。また、車輌無線機甲は陸軍通信隊の車輌用無線機であるが、その構成は99式飛1号に相似している。
この内、現在安齊君によりム51三型・受信機の修復が進められているが、同調ダイアル部修復のためダイアル盤を取り外したところ、内側にウオームギァ機構のバックラッシュ防止のため、ゼンマイ構造のテンション用スプリングが装置されていた。
事務局員はこれまでに99式飛を構成する受信機のダイアル盤を外した事が無く、連絡を受け誠に驚いた。急ぎ既に半分が分解された99式飛3号・受信機のダイアル盤を外し点検したところ、本機にも同様のゼンマイによるテンション機構が装置されていた。
99式飛型無線機の導入は昭和14年(1939年)頃から始まったが、この時期既に陸軍機材には、ウオームギァ機構にウオームホイール2枚を使用し、この2枚にスプリングにより互いに逆方向のテンションを与え、バックラッシュを防止する方式が導入されていた。
とは言え、これらの同調機構は必ずしも完全では無く、このため、飛1号・受信機のウオームギャ機構には、ゼンマイによりテンションを加える方式が採用されたとも考えられる。このゼンマイは、蓄電器を同調周波数の高い方向に回転させると緩み、下げると巻き上げられる構造である。
99式飛機材は1号-3号が外観上は同一同調構成で、このため、未確認の飛2号無線機・受信機も同様に、ゼンマイ式テンション機構を装備していると考えられる。
なお、安齊君によるム51三型・受信機の修復は順調で、既に不良マイカ蓄電器の交換により装置は動作状態に復旧し、現在はトラッキング調整待ちである。
「99式飛1号無線機」補足
本機は昭和14年より暫時実施された第4次制式制定作業に於いて兵器化された、陸軍大型航空機用の遠距離通信機材である。送信機、受信機は非常に小型に造られており、容積は同一で16x24x18cm、重量は送信機が7.5kg、受信機が6kgである。
本無線機には原型及び改良型の複数種が確認されているが、運用周波数を除き構成回路に大きな違いはない。大戦末期になり陸軍航空部隊用機材は名称が変更され、本機は「ム51」表記となった。
99式飛1号無線機2型を構成する受信機は、高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式で、唸周波発振(BFO)、中間周波A2変調及びAGC機能を具え、構成真空管は5極(P)・3極(T)複合管Ut-6F7六本である。対応周波数は2,500-10,000KHzで、この周波数帯を差替え式線輪2本で受信する。
99式飛1号無線機諸元
用途: 遠距離航空機
通信距離: 1,000km
運用周波数: 1型、送信2,500-15,000kHz、受信2,500-15,000kHz
2型・3型、送信2,500-10,000kHz、受信2,500-10,000kHz
電波型式: A1(電信)、A2(変調電信),A3(電話)
送信機: 出力(A1)40W、(A2・A3)10W、水晶及び主発振輻射UY-807A x2並列使用、第二格子変調UY-807A
受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段、AGC機能付(Ut-6F7 x6)
中間周波数: 450kHz
送信機電源: 入力24V直流回転式変圧器、出力700V
受機電源: 入力24V直流回転式変圧器、出力270V、低圧(線條用・送受信機兼用)8V4.7A
空中線装置: 垂下式、又は逆L型固定式、柱高0.8m、地線は機体接地構成
当館は現在旧軍無線機材の編纂に関わる関連資料として、大戦期に於ける米軍の携帯式無線電話機についての纏めを行っている。対象機材は陸軍通信隊のBC-222/SCR-194・195、BC-611/SCR-563-A、BC-1000/SCR-300及び海軍のTBYである。
先般、これらの内、最後に残った海軍のVHF簡易機材「TBY」について纏めを完了し、資料に添付する写真の撮影を行った。しかし、本体を筐体より取り出したところ、なんと、送信部の発振同調コイル4本(4バンド)の内、装備されていたのは50MHz帯をカバーする3番コイル一本のみで、有ろう事か他の3本は外されており、驚愕した。
このTBYに就いては、入手に関わる記憶があまり無い。TBYは簡易無線電話装置ながらよく出来た機材で、過去に装置完全一式を二度ほど所蔵した事があった。しかし、時期は資料館開設以前で、このため、特段の考慮無しに手放した経緯がある。
その後編纂作業の関連で再度の入手が必要となり、「ヤフオク!」で本機を落札した事は覚えている。出品時に掲載された写真で状態は把握しており、入手時に細部を確認する事も無く、長い間放置していた。
送信部の同調コイルは受信部と同一のターレット構造で、上蓋を開け内部を見ればその状態を確認することが出来る。しかし、バンド3のコイルを上部より見える位置に設定して写真を撮れば、他3本のコイルは確認する事は出来ない。ただし、落札は小生の責任に於いて行っており、文句を付けられる事柄でも無い。之が古物買いである。
とは言え、全く予期せぬ出来事で驚きは大きく、久しぶりに泣いた。
米国海軍簡易無線電話機「TBY」補足
TBYは1930年代の後半に開発された米国海軍のVHF携帯無線電話機で、陸戦隊や艦隊等海軍の各部署で広義に使用された。本機は送信が自励発振・直接輻射方式で、受信が超再生検波方式の簡易無線機材であり、運用周波数は28-80MHzである。TBYは兵一名が背負い移動しての運用が可能であるが、通常は半固定式で運用する事が多かった。本機は大戦終了まで使用されたため、開発以降多くの改良が施され、各型が生産されたが、基本回路構成に然したる違いは無い。
TBY-8緒元
用途: 海軍陸戦隊用
通信距離: 約1.5km
電波形式: 変調電信(A2)、電話(A3)
送信出力: 0.5W
運用周波数: 28-80MHz(4バンド)
送信構成: 発振「958A(P.P.構成)」、陽極変調(ハイシング変調)「1E7G(五極部.P.P構成)」、音声増幅・低周波発振「30」
受信構成: 高周波増幅「959」、超再生検波「958A」、低周波増幅1段「30」、低周波増幅2段「1E7G(五極部.P.P構成)」、較正用水晶発振「30」
電源: CNC-19018B型乾電池(156V、3V、1.5V、-7.5V)
空中線: ロッド型、2.7m10段繋
総重量: 約13Kg